滲出液が出ていたら感染症?

「滲出」は炎症過程で起きる

アトピー性皮膚炎の症状のひとつに、滲出液があります。

頭部、体幹部、四肢など、全身のさまざまなところから出てくる可能性があります。

私の場合、軽症時に滲出液が出てくることはなく、出てくるのは重症のときです。ですから、滲出液の量は重症度のバロメーターでもあります。

ところで、滲出液とは、どんな液なのでしょうか。

滲出(しんしゅつ、英:exudation)とは炎症により血管壁や組織の性質が変化して血液や組織液が血管外へ流出すること。滲出した液体を滲出液(exudate)という。滲出液はリバルタ反応陽性。
炎症早期に毛細血管が拡張することで血管壁の透過性が亢進する。通常は血管外に出ることがないフィブリノーゲンやグロブリン、アルブミンなどの血漿タンパク質をふくむ血液成分が血管外に出る。このため滲出する液はタンパク濃度が高い。病的状態において浮腫がみられる場合は腹膜炎などの炎症性疾患、感染症、結核、悪性腫瘍で滲出液がみられる。1)「滲出」(2013年4月17日 (日) 02:09 UTCの版)『ウィキペディア日本語版』。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BB%B2%E5%87%BA

滲出液とは、「炎症」により血液や組織液が血管外へ滲出したものと考えられています。

なお、英語論文等では、exudate のほか、ooze や weep などの表現がみられます。

さらに、世界大百科事典の「炎症」より、一部引用します。

コーンハイムJulius Cohnheim(1839-84)は,炎症の起こる経過をカエルの腸間膜を用いて顕微鏡で観察し,炎症の初めに血管が拡張し,次いで血液の流れが変化し,そして白血球や血清が血管からしみ出る(滲出という)ことを記載し,炎症の実験的研究の口火を切った。2)改訂新版 世界大百科事典, 「炎症」, 平凡社, 2014.

このように、滲出は、炎症の過程で生じる反応のひとつです。

誰でも一度は、転んでひざに擦過傷を負ったときなどに、透明な滲出液が出てきた経験があるかと思います。アトピー性皮膚炎の人にだけ出てくるわけではありません。

滲出液はタンパク質が多く、創傷治癒にかかわるさまざまな炎症細胞やサイトカインなどを含んでいます 3)https://www.almediaweb.jp/glossary/0443.html

キズパワーパッド™などのハイドロコロイド素材を用いたモイストヒーリング(湿潤療法)は、滲出液を利用して傷の修復を早めようとするものです。

また、脱ステ医では、傷を治すために出てくる滲出液をぬぐい取らないことや、流出したタンパク質を積極的に摂取することが指導されています。

他方、滲出液の量が多すぎる場合には、水分摂取が制限されることがあります。

浸出液すなわち感染症ではない

さて、アトピー性皮膚炎においては、滲出液はとくに脱ステロイド期などの炎症が強いときに出てくることが知られています。

また、脱ステロイド期には感染症にかかりやすいことも知られています。

そのため、アトピー患者のなかには、この2つの現象を混同して、”滲出液が出ている重症アトピーは感染症にかかっている” と考える人が稀にいます。「滲出液」すなわち「感染症」というわけです。

この情報を真に受けた患者は、滲出液が出て感染症にかかったと思い込み、慌てて病院等へ行って抗生物質を処方してもらおうと考えるかもしれません。

しかしもちろん、「滲出液」が出た場合に必ず「感染症」への対策をしなければならないわけではありません。

アトピーの標準治療を行っている九州大学皮膚科、古江増隆氏の著書には次のようにあります。

タクロリムス外用薬は、炎症に対して著しい効き目があります。ただし、塗った患部がほてったり、ヒリヒリしたりする刺激症状が出ることが欠点です。そのため、初期に、かゆみがひどくてあちこちかいて、患部から血が出ていたり、ジクジクと水のような浸出液が浸み出していたりするときには使えません。ステロイド外用薬を使って、症状が改善してきたところで使い始めます。4)古江増隆, 福井次矢, アトピー性皮膚炎: 正しい治療がわかる本. 法研, 2008.

滲出液が出ているときは、タクロリムス外用薬は使えないので、先にステロイド外用薬を使って症状を改善させる旨が記述されています。

また、かつて、脱「ステロイド療法」を行っていた深谷元継氏は、著書 (1999年) で次のように述べています。

リバウンドがある程度まで進んでしまった状態、滲出や全身の紅皮症が始まってしまった時には、それを制御できるのは、私の現在までの経験からは、皮肉なことにステロイドの注射か内服(全身投与)しかない。5)深谷元継, ステロイド依存-ステロイドを止めたいアトピー性皮膚炎患者のために, 柘植書房新社, 1999.

深谷氏は、滲出や全身の紅皮症が始まったときの手段として、やむを得ず、ステロイドの注射・内服で抑える方法もあり得ることを述べています。

このように、両者は、滲出液が出ている重症時において、治療手段として抗「炎症」薬のステロイド薬を挙げています。

感染症が確認されていない状況で抗生物質を服用しても、滲出液は止まらないでしょう。むしろ抗生物質の副作用のリスクを高めることになります。

細菌感染の場合の滲出液

一方で、細菌感染にかかった場合の滲出液とはどのようなものなのでしょうか。脱ステ医の佐藤健二医師は次のように述べています。

細菌感染の場合はビラン面が一様な深さを示しかつ滲出液が膿性あるいは周囲にある痂疲が膿性である。(中略)

細菌感染の場合、通常抗生物質を内服すればよいが、重症であれば抗生剤点滴を行う。(p.109)

新たに皮疹ができていないにもかかわらず、突然高熱が出現し、皮疹部の滲出液が増加し、そのそばの領域リンパ節が腫れて痛くなると、ウイルス感染、特にカポジ水痘様発疹症(単純ヘルペスの広がったもの)を疑うべきである。滲出液が出ずに高熱とリンパ節腫脹と疼痛だけの場合もある (p.112) 6)佐藤健二, <新版>患者に学んだ成人型アトピー治療-難治化アトピー性皮膚炎の脱ステロイド・脱保湿療法, 柘植書房新社, 2015.

感染症において、滲出液の色や性質、量が変化することを指摘しています。そして、細菌感染が起こってはじめて、抗生物質の使用が検討されています。

もちろん、脱ステロイド時は、感染症にかかる場合があることも事実です。そのため、感染症を予防するために入浴を限定的に利用することがあります。

ステロイドや保湿離脱中の皮膚には滲出液が多く細菌増殖の温床となるため、皮膚に付着している細菌を減らして感染症を予防する必要がある。これが入浴の主要な目的である。入浴の他の目的は、滲出液から出る不快なにおいを除去すること、脱落してもよい痂疲や鱗屑を除去し、皮膚の代謝亢進や痒み減少をもたらすことである。(p.114)

ただし、入浴でかえって滲出液が多く出てしまう場合など、洗いすぎると悪影響が出る場合もあるので、注意が必要です。

さらに、どのようなときに細菌の増殖あるいは感染が起こりやすいかについて、佐藤医師の別の著書から一部引用します。

掻き傷ができると、そこから淡黄色の汁(滲出液)や血が出てきます。しばらく放置していると、変な臭いがしたり、茶色や褐色のかさぶた(痂疲)になります。(中略)

傷から出る汁や血液は、細菌が増殖するのに非常に好都合な培養液のようなものです。ですからそこで、細菌は増殖します。この細菌がこの滲出液(汁)の成分を分解すると、変な臭いがするのです。この時、細菌感染症といった皮膚の病気にはめったになることはありませんから、臭いがしても気にしないことです。

細菌感染症が起こると、痛いおできのような形か、または1日中ジクジクがとまらずに、滲出液が出続ける赤いビランの形をとります。この場合は抗生物質を内服して治療します。保湿剤への依存症がなければ、外用の抗生物質を使用することもあります。(p.118)

細菌が皮疹を悪化させていることは、それほど多くはありません。しかし、夜中に掻き破った頬のジクジクが、日中掻かなかった場合でも、いつまでもジクジクして滲出液が出続ける場合は、細菌がかなり増殖して、傷を治りにくくしていることがあります。この時は、抗生物質の内服をしたほうがよいでしょう。(p.142) 7)佐藤健二, 佐藤美津子, ステロイドにNO! を 赤ちゃん・子どものアトピー治療, 子どもの未来社, 2010.

佐藤医師の著書には、滲出液について多岐にわたり記述があります。引用部分は参考程度にとどめて、詳しくは原著を参照してください。

情報の利用は自己責任で

私は過去の記事で、乳首からの滲出液について、何も外用治療をせずに滲出液が止まった経験を書きました。

私がそのとき積極的に外用治療を行わなかったのは、滲出液の量が増えたり、色が変わったり、滲出液の出る範囲が広がったりすることがなく、周囲の赤みなどの炎症がおさまるにつれ、少しずつ改善している兆しがあったからです。

滲出液の色が変わるなど、何かしら異常が生じたならば、医師を受診したことでしょう。滲出液を放っておいてよいわけではありません。

一方で、滲出液が出て感染症にかかったと思い込み、自己判断で皮膚殺菌や抗生物質の内服を始めることは、支離滅裂です。

“滲出液すなわち感染症” とは限りません。ネット上の根拠のない情報は、落ち着いて受け止める必要があるでしょう。

(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)

(引用部分の翻訳および赤字による強調表示は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

References   [ + ]

1. 「滲出」(2013年4月17日 (日) 02:09 UTCの版)『ウィキペディア日本語版』。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BB%B2%E5%87%BA
2. 改訂新版 世界大百科事典, 「炎症」, 平凡社, 2014.
3. https://www.almediaweb.jp/glossary/0443.html
4. 古江増隆, 福井次矢, アトピー性皮膚炎: 正しい治療がわかる本. 法研, 2008.
5. 深谷元継, ステロイド依存-ステロイドを止めたいアトピー性皮膚炎患者のために, 柘植書房新社, 1999.
6. 佐藤健二, <新版>患者に学んだ成人型アトピー治療-難治化アトピー性皮膚炎の脱ステロイド・脱保湿療法, 柘植書房新社, 2015.
7. 佐藤健二, 佐藤美津子, ステロイドにNO! を 赤ちゃん・子どものアトピー治療, 子どもの未来社, 2010.

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