温泉の効果減弱について

皮膚病に温泉療法が有効であることは論を俟たないでしょう。

私は、免疫抑制外用剤によるリバウンドを初めて経験したとき、ある温泉で湯治を行い劇的に改善した経験をもっています。

以来、皮膚がひどく悪化するたびに温泉へ行き、改善して帰ってくる、ということを繰り返してきました。

それならば、いっそのこと、温泉のある地へ移住してしまえばよいのではないか、と考えたこともありました。

しかし、結局、移住することはありませんでした。

なぜなら、仕事を探すのが難しく、住み慣れた都会を離れ不案内な土地へ移り住むことには抵抗があるからです。

また、これら一般的な理由のほかにも、心配されることがあります。それは、その温泉の効果が減弱したと感じられることです。

つまり、最初に湯治をしたときは劇的に改善し、2回目も大きく改善したものの、その後何回か通っているうちに、最初のときほどの改善がみられなくなってきたのです。

まったく効かないわけではありません。よく効くのですけれども、最初のときのような劇的な効果が感じられないのです。

何度も湯治をしているうちに、効果が薄れてしまったのかもしれません。

これは私の思い込みなのでしょうか。

 

調べてみると、ずっと温泉に入り続けていると、効果が薄れることがあるようです。

関節リウマチに対する温泉治療では、治療開始から6週以降に効果が減弱するといわれています。

6週以降は慣れによる効果減弱を認める場合が多く、時期を変えて繰り返す方がよい1)吉尾慶子ら, 慢性関節リウマチ患者の温泉治療効果に関する要因の分析. 岡大三朝分院研究報告 70, 73-78, 1999-12.

 

温泉療法に詳しい皮膚科医の野口順一氏は、温泉の効果減弱について「慣れの現象」という言葉を用いて説明しています。

熱傷後の潰瘍を人工食塩泉浴などで加療していると、最初のうちは目に見えてその面積が縮小していくが、ある期間を過ぎると、その縮小率が低下してくる。

このような状態になった時、一時その人工食塩泉浴を中止して休浴するか、あるいは淡水浴に替え、その後しばらくして再び人口食塩泉浴を適応して治療すると、以前と同様に能率よく潰瘍の面積が縮小していく。

熱傷に限らず、他の慢性の皮膚疾患においても、同一の泉質の浴泉を長期間適用しているとその効率が低下してくることがあり、このことを「慣れの現象」という。また、それを防止するために替える泉水を「直し湯」という。2)野口順一「皮膚病の温泉・水治療法」p74. 光雲社. 1996.

野口氏は、同じ泉質の温泉に入り続けていると「慣れの現象」が起きてしまうため、休浴や泉質の異なる温泉に替える「直し湯」が必要だといいます。

かつて、強酸性の草津温泉での湯治の後に、近くにある湯あたりのよい四万温泉が直し湯(仕上げ湯)として利用されていたように、泉質の異なる温泉に入ることは温泉療養において古くから伝えられてきた知恵なのでしょう。

また、野口氏は、いわゆるアトピー性皮膚炎患者のための「直し湯」について述べています。

難治性のいわゆるアトピー性皮膚炎の患者では、一回だけの適応泉浴だけでは完治できない場合が多いので、適当に「直し湯」や休浴を挟んで治療を進めていくと、効率がよい。すなわち、一年間続けて湯治するよりは、二~三ヶ月間ずつ湯治して、間に帰省を挟んだほうがよい。3)野口順一「アトピー性皮膚炎の温泉・水治療法」p191. 光雲社. 1995.

すなわち、ある温泉でずっと湯治を続けるよりは、他の温泉に入ってみたり、帰省して湯治をしない期間を設けた方がよいといいます。

これが正しいとすれば、ある温泉に移住して毎日同じ温泉に入るよりも、年に数回、自宅から行き来する形で間欠的に湯治を行う方がよいと考えられます。

というわけで、私は、湯治は年に数回までとし、なるべく異なる泉質の温泉を組み合わせ、ひとつの温泉に依存しないように心がけています。

 

こうした「慣れの現象」や「直し湯」といった古くからの知恵は、最近ではあまり顧みられないと思われます。

けれども、長年にわたり湯治客を見守ってきた旅館の人たちには受け継がれているようです。

ある湯治体験記には、温泉の館主から「同じ温泉ばかりに入っていると身体が慣れてしまうので泉質の異なる温泉に入った方が良い」とアドバイスを受けたことが綴られています。

「同じ温泉ばかりだと身体が慣れてしまうんですね。そろそろここ(大沼旅館)と違った泉質のところに入ってくるといいですよ、えっと地図でいうと、ここと、ここかな」と、湯治を始めて数日後、館主さんからのアドバイスあり。4)http://www.ohnuma.co.jp/izanai/report/ozaki.html

自分の旅館の温泉だけでなく近くの他の温泉を勧めるところなど心の広い館主だと思いますし、地域の温泉の泉質を知り尽くしていることはすばらしいと思います。

こうした知恵が、薬物療法中心のなか、時とともに失われてしまうとすれば残念なことです。

また、昨今のSNSの台頭により、多様な知識が失われてしまうのではないかという懸念をもっています。

例えば、ひと昔前まで、アトピーに効く温泉といえば、草津温泉、蔵王温泉、鳴子温泉、有馬温泉、明礬温泉、塚原温泉など、さまざまな温泉が挙げられていたと思います。

しかし今は、豊富温泉ばかりがクローズアップされているように感じます。SNS等で同様の情報が拡散され、かつ、情報源が画一化しているからではないかと推測しています。

豊富温泉一択になってしまうと、豊富温泉の効果があまり出ない人や、効果が薄れてきたと感じる人にとっては、あまり良くない状況です。

薬でも温泉でも、ひとつのものに頼ると、それがいざ効かなくなったときに窮地に立たされます。そのリスクを低減させるには、いくつかの選択肢をもつことです。

薬だけに頼らず、温泉だけに頼らず、温泉のなかでもひとつの温泉に頼らない、多様な選択肢があれば、治療に余裕をもって臨めるのではないでしょうか。

 

References   [ + ]

1. 吉尾慶子ら, 慢性関節リウマチ患者の温泉治療効果に関する要因の分析. 岡大三朝分院研究報告 70, 73-78, 1999-12.
2. 野口順一「皮膚病の温泉・水治療法」p74. 光雲社. 1996.
3. 野口順一「アトピー性皮膚炎の温泉・水治療法」p191. 光雲社. 1995.
4. http://www.ohnuma.co.jp/izanai/report/ozaki.html

4件のコメント

  1. はじめまして。
    私も長年アトピー性皮膚炎を患っています。

    ある温泉で劇的に改善、と書かれてますが、どこだか教えていただけませんか?

    ちなみに私も、温泉療法をしています。
    豊富温泉から始まり、草津温泉なども経験しました。
    豊富温泉は、1回目の滞在の時は効果あり、2回目も効果あり、3回目から効果を感じなくなってきたので、今は休止しています。
    草津温泉は、乾燥性アトピーにはきついと感じたので休止しました。
    今は、また別の温泉を試しています。

    このブログが大変参考になってます。
    ありがとうございます。

    1. 同じような問い合わせが時折来るのですが、すべてお答えしていません。その理由は過去の記事「他人のアトピーを良くしたい?」に書いてあります。どうかご理解ください。

  2. 他人のアトピーを良くしたい?という記事を読みました。そして納得しました。
    泉質に関するヒントが他の記事にありましたので、それを参考にしてみます。
    どうもありがとうございます。

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