今年2017年4月、東京都福祉保健局が「東京都アレルギー情報navi.」というサイトを開設しました。東京都はアトピー性皮膚炎をアレルギー疾患と位置付けているようで、アトピー性皮膚炎の情報が公開されています。
同サイトを一読したところ、ほぼ標準治療の内容をコピー&ペーストしただけの内容にしかみえませんでした。注目すべき新しい知見もなく、よくある内容です。
ですから、九州大学の標準治療サイトへのリンクを貼っておけば良いと思うのですが、東京都もサイトを立ち上げた以上、独自のコンテンツが必要なのでしょう。
しかし、アトピー歴が長いと、どうしても、こういった情報に、突っ込みを入れたくなってしまいます。
今回は、同サイトのアトピー性皮膚炎についての「よくある質問」について、患者の立場から意見を述べたいと思います。
では、早速Q1からみていきます。
Q1 ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を使用しても、症状がなかなか良くならず、副作用も心配です。どうしたらよいでしょうか。
A1 なかなか良くならない方の中には、薬の使用量、特に1回に塗る量が足りていない方がいます。(後略)
この “塗る量が足りない” とする論法は、最近頻繁に用いられていますが、治療を施す側にとって、大変に都合の良い論法です。
医師は、患者からなかなか治らないと訴えられても、「きちんと塗っていますか? 塗る量が足りていないのではないですか?」と言えば、問題はすべて患者側に転嫁され、免罪されてしまうのです。
推測ですが、患者はおそらく必要な量を塗っていると思います。それでも治らないのです。また、ステロイド外用剤依存に陥る人がいることからすると、むしろ塗り過ぎている可能性もあります。
A1は塗布量を増やすことを推奨しておきながら、ステロイド依存やステロイド抵抗性についての視点が抜け落ちており、問題です。
Q2 ステロイド外用薬を塗って、症状が良くなっても薬を塗る必要があるのは何故ですか。
A2 ステロイド外用薬を塗って一時的に症状が良くなり、皮膚の表面がきれいになっても、皮膚の内部には炎症が残っていることが多いため、医師の指示された期間は塗り続けてください。(抜粋)
プロアクティブ療法を説明するためのQ&Aです。
皮膚内部の炎症は目に見えないのに、医師はどうやって塗る期間を判断するのでしょう。患者の目に見えないものが、医師の目では見えるというのでしょうか。
「医師の指示された期間は塗り続けて」とありますが、そもそも医師が指示できるかどうかが問題です。
TARC等を定期的に測定して、十分に数値が下がるまで経過をみていたとしても、ステロイド外用薬を塗るのを止めれば、再燃する可能性があります。
実際のところ、再燃は不可避でしょうから、薬を生涯塗り続けることになるでしょう。患者には、プロアクティブ療法が生涯続く可能性があることを伝えるべきです。
治ることはないけれども、プロアクティブ療法であれば寛解維持期が長いので、生涯のQOLは高いであろうことを説明すれば、納得する患者もいるかもしれません。ただし、ここでもステロイド依存のリスクの説明は必要です。
一方、一生薬を塗るのは嫌だという患者がいれば、その患者には他の治療の選択肢が提示されるべきでしょう。
副作用のない薬はないのだからリスクは引き受けるべき、などという説明は詭弁です。治療を選ぶのは患者です。
プロアクティブにしろリアクティブにしろ、初診時において、対症療法であることをはっきりと説明した方が、患者のためになります。
その他、薬を塗布する頻度について、まったく触れられていません。週2日なのか、週3日なのか、1日何回か、保湿剤を併用するのか、タクロリムスでは頻度は異なるのか、など、プロアクティブ療法における重要な情報がごっそりと抜け落ちています。
Q3 アトピー性皮膚炎の子供は、食事療法をする必要がありますか。
A3 食物が関係していることが疑われる場合は、必ず食物アレルギーに精通した医師や専門医に相談してください。乳幼児期のアトピー性皮膚炎には、食物のアレルゲンが関連していることもありますが、その場合も、食事療法だけをしていても症状は良くなりません。(後略)
このQ&Aは良い内容だと思います。アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは混同されがちなので、分けて考える必要があることを伝えるべきだと思います。
Q4 保湿剤と外用薬の塗る順番を教えてください。また、日焼け止めなどを使いたい場合は、どうしたらよいでしょうか。
A4 (前略)
一般的には、身体を洗って清潔にした後、①保湿剤 ②ステロイドなどの外用薬の順で塗ります。日焼け止めや虫除け薬などを使う時は、(中略)①保湿剤 ②外用薬 ③日焼け止め ④虫除け薬 の順となります。
塗る順番については、知恵のレベルという印象。根拠となる文献の明示が必要です。
Q5は省略。
Q6 石鹸やシャンプーは、どのようなものを使えばよいですか。
A6 添加物などが入っていない、皮膚と同じ弱酸性の普通の石鹸とシャンプーでかまいません。(後略)
必ずしも弱酸性の石鹸が良いとは限りません。
Q7 ストレスで症状が悪化するというのは本当ですか。
A7 思春期や大人のアトピー性皮膚炎では、学校や会社、家庭などでの人間関係や忙しさ、進路や自立の不安など、心理的なストレスが症状の悪化に関係していることがあります。(後略)
東京都は、
「心理的なストレスが症状の悪化に関係します」とは言わず、
「心理的なストレスが症状の悪化に関係していることがあります」と、
言葉を濁しました。
妥当な判断かと思います。アトピーと心理的なストレスとの関係はよくわかっていないからです。
私の経験では、
「アトピーが心理的なストレスになる」ことはよくあります。けれども、
「心理的なストレスでアトピーが悪化する」という経験をしたことは、自覚的には一度もありません。
Q&A 8 は問題が多いので、ひとつひとつ指摘していきます。
Q8 汗をかいた時の具体的な対処方法を教えてください。
A8 皮膚に湿疹や炎症がある状態で、汗をかいてそのまま放っておくと、皮膚がかぶれて症状が悪化する原因になるので、汗対策は重要です。汗をかいたら、こまめに拭いたり、シャワーなどで洗い流してください。
「汗をかいてそのまま放っておくと、皮膚がかぶれて症状が悪化する」というのは、自己汗中の何らかの成分に対する接触性皮膚炎のことを指しているものと思われます。
仮にそうだとすると、接触性皮膚炎は、食物アレルギーなどと同様、厳密にはアトピー性皮膚炎とは関係ありません。
多くのアトピー性皮膚炎患者は、「放っておいた汗」ではなく、「発汗直後の汗」のかゆみに悩んでいるはずです。ですから、汗をかいたら、拭きましょう、洗い流しましょうという指導は、すでに発汗直後に掻きむしっているため無意味なのです。
A8の続きです。
汗や汚れをなるべく早く洗い落とすためには、1日2回の入浴やシャワーが有効だとされています。運動をした後や暑い時期などは、入浴やシャワーの回数を増やすと良いでしょう。また、入浴やシャワーの後は、肌の脂分も洗い流されて乾燥しやすくなっているので、保湿も忘れずに行ってください。
毎日2回も入浴していたら、皮膚の天然保湿成分がどんどん失われてしまいます。
驚くことに、暑い時期はさらに回数を増やすと良いといいます。一体何回入浴しなければならないのでしょう。毎回、石鹸やシャンプーを使うのでしょうか。その情報こそ重要です。
ワセリンやヒルドイド等の役目は主に保護作用であって、天然の脂分まで補充できません。
「保湿しましょう」と言っておけば間違いないと考えているのでしょう。
A8の続きです。
汗は放置すると悪化因子になりますが、湿疹が良くなると汗をかくようになりますので、汗をかくことを忌み嫌う必要はありません。汗を沢山かくことは良くなった証拠です。
「汗を放置するとかゆくなる説」について、私はほとんど信用していません。
また、「湿疹が良くなると汗をかくようになります」と簡単に言いますが、アトピー患者は湿疹がなかなか良くならないから困っているのです。
さらに、重症アトピー患者に「汗をかくことを忌み嫌う必要はありません」という指導をして汗をかかせた場合、大変に悪化する可能性があると思います。
汗の話をするときは、最低限、汗が何の疾患に及ぼしている話なのかを明確にすべきです。つまり、汗が関与しているのが、接触性皮膚炎なのか、汗疹なのか、マラセチア等真菌が関与する皮膚疾患なのか、コリン性蕁麻疹なのか、それともアトピー性皮膚炎なのかを区別すべきです。
加えて、疾患重症度、汗腺機能、保湿成分、自己汗アレルギー、皮膚微生物叢、抗微生物ペプチドなどの要素も考慮すべきです。
ともあれ、汗についてのQ&A8は、最近流行りの「汗はかいたほうがよい、しかし放置してはいけない」という考え方でまとめられていました。何の参考にもなりません。
Q9 ステロイド使用に拒否感を持っている人には、どのような対応をしたらよいでしょうか。
A9 アトピー性皮膚炎は、外見上の皮膚の症状があるために、他人と比べて劣等感を抱く事も少なくありません。ステロイド外用薬に不安を持っている人や薬の使用を拒否する人は、科学的に根拠のない口コミや誤った情報を信じ込んでいたり、マスコミやインターネットからの情報を見て何が良いのか分からなくなっていたり、正しい知識や適切な対応方法を知る機会が無く辛い体験をしてきたために、薬や医師を信用できなくなっていることがあります。
長い期間、この疾患・症状と闘い続け、いろいろな葛藤や思いを抱えていることが多いということを理解する必要があります。やる気や理解がない人だ、と相手に対する拒絶感や対抗姿勢をもったまま、はじめから正論で説得するのではなく、まずは、薬の不安や拒否感を持っている気持ちやその理由について傾聴する姿勢で対応することが必要です。そのコミュニケーションの中から解決の糸口が見つかることもあります。
信頼関係を築くまでは時間がかかるかもしれませんが、専門医による講演会の案内や公的機関が発行するアトピー性皮膚炎のリーフレットや資料を『あくまで情報提供として』さりげなく渡したり(ただし、相手の行動変容を強制しない)、場合によっては専門相談機関に対応の仕方を相談してみるなど、相手を責めないアプローチの工夫をしてみてください。
私のようなステロイド忌避患者に対して、どのように対応するべきかというQ&Aです。
思うに、標準治療やガイドラインは絶対的に間違っていないと、楽観的に信じることのできる人は、このような文章が書けるのでしょう。この文章を書いた人は、自分は正論を述べることができる立場にあると考えているようです。
おそらくステロイドを使ったこともないし、脱ステ患者にヒアリングをしたこともないし、リバウンドの壮絶さも知らないのでしょう。そのような人が主張する “正論” であれば、私は信用しません。
「傾聴する姿勢で対応する」というのは、真剣に話を聞くふりをする、ということでしょう。ずいぶんバカにされたものです。
ごちゃごちゃ言っていないで、治してくれればいいんです。薬で治れば文句は言いません。でも、薬では治らないんです。それでも薬を使いましょうというのが “正論” なのでしょうか。
A9から再掲します。
ステロイド外用薬に不安を持っている人や薬の使用を拒否する人は、科学的に根拠のない口コミや誤った情報を信じ込んでいたり、
口コミなど信じていません。
むしろ「ステロイドを使用しても治らないのは塗る量が足りないからだ」という口コミを信じ込んでいるのは、このQ&A制作者です。
マスコミやインターネットからの情報を見て何が良いのか分からなくなっていたり、
マスコミやインターネットの情報など、ほとんど参考にしません。だいたいコピペ元がわかりますし、多くの場合間違っているからです。
むしろ「汗をかくことを忌み嫌う必要はない」という情報を垂れ流すなど、何が良いのか分からなくなっているのは、このQ&A制作者です。
正しい知識や適切な対応方法を知る機会が無く辛い体験をしてきたために、薬や医師を信用できなくなっていることがあります。
標準治療やガイドラインに基づく “正しい知識や適切な対応方法” なら、マスコミやインターネットにあふれています。知る機会が無いはずはありません。
私は、ステロイドの副作用による辛い経験をしてきたために、ステロイドやステロイドを安易に処方する医師を信用できなくなっています。その考察は正しいです。
ともかく、東京都は頼りにならないことがよくわかるQ&Aです。結局は、ステロイドを塗っておけばいいと考えているのでしょう。
アトピー性皮膚炎診療ガイドラインは、ステロイド外用薬の使用を推奨していますが、その長期使用については科学的根拠がありません。
アトピー性皮膚炎における大きな問題は、第一選択薬であるステロイド外用薬による副作用の頻度が高く、かつ、副作用が重篤であることです。
ステロイドは適切に使用すれば副作用が起きないといわれますが、どうしても一部において、長期連用に陥り、副作用が生じてしまう患者がいます。
おそらくステロイド薬に対する個人的感受性の違いによって、また使用量や使用期間の要素も相まって、すべての患者に同じ効果をもたらすわけではないのでしょう。
こうした問題を調査研究すべきであるにも関わらず、さらにステロイドを塗布することで、問題を糊塗しようとしています。
いずれにせよ、ステロイドを使用すれば悪化する可能性が高い患者においては、ステロイドを使用しない治療が受け入れられてしかるべきです。
最後に、Q&A10を紹介する価値があるかどうか、悩ましいところですが、一応引用します。
Q10 かゆくて眠れない場合はどうすればよいですか。
A10 冷やす、意識をそらす、といった方法があります。(後略)
論外。