プロアクティブ療法はいつまで続ければよいのか?(3)

当初は3か月

プロアクティブ療法、すなわち寛解導入後にステロイド外用薬等を週2回程度塗布することにより寛解状態を維持する療法について、当サイトでも度々取り上げてきました。

私の疑問点は、プロアクティブ療法をいつまで続ければ、治療を終えることができるのか、という点にあります。

プロアクティブ療法は長期治療を前提としており、治療薬の副作用が懸念されるからです。

アトピー性皮膚炎診療ガイドラインによれば、安全性に関して、ステロイド外用薬では約4か月、タクロリムス外用薬では1年間、基剤と有害事象の差は無いとされています。

プロアクティブ療法は,ステロイド外用薬,タクロリムス外用薬を問わず,皮疹の再燃予防には有用であり,安全性に関しても,ステロイド外用薬で16 週間¹⁶²⁾∼¹⁶⁶⁾ ,タクロリムス外用薬で1 年間¹⁶⁷⁾∼¹⁷¹⁾ までの観察期間においては,多くの報告が基剤の外用と有害事象の差は無いとしており,比較的安全性の高い治療法であると考えられる.ただし,プロアクティブ療法の安全性について,それ以上の期間での検討がなされておらず,副作用の発現については注意深い観察が必要である1)「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版」

したがって、安全にプロアクティブ療法を終えるためには、ステロイド外用薬であれば、治療開始から4か月以内が望ましいと考えられます。

 

では、期限を4か月としたうえで、基本的な治療期間の目安はどのくらいなのでしょうか。

この点、先のガイドラインには、「個々の症例に応じた対応が必要」との記載があるのみで、具体的な期間については言及されていません。

ここで、ひとつの参考となるのが、2016年にドイツで刊行されたガイドラインです。同ガイドラインは、数か月(当初は3か月)の治療を推奨しています。

Following the acute therapy, proactive intermittent follow-up treatment for several months (usually three-monthly initially) twice a week on previously diseased areas can be recommended.

急性期の治療後、元の罹患部位に、週2回を数か月(通常は当初3か月)の、プロアクティブ、インターミッテント、フォローアップ治療が推奨され得る。2)Werfel T et al. S2k guideline on diagnosis and treatment of atopic dermatitis – short version. Allergo J Int 2016;25:82–95.

「当初は(initially)」という注釈めいた言葉がついていますから、当初の3か月で治まるとは限らないことが示唆されています。

場合によっては、3か月ではプロアクティブ療法を終えることができないかもしれません。

しかしながら、治療期間の目安を認識しておくことは、漫然としたプロアクティブ療法の長期継続を防止する観点から大切であると思います。

 

また、皮膚科医の片岡葉子氏が、上記ガイドラインと同様の3か月間を目安とした、具体的なプロアクティブ療法の内容を、ある座談会で説明しています。

片岡氏が実践するプロアクティブ療法とは、「寛解導入期」「維持期」「漸減期」の3ステップにわたるもので、各ステップを基本的に1か月としています。

3ステップ以降は、週2回の間欠投与の状態を維持するものとのことです。

さらにその後、週1回の外用薬塗布で症状のない状態を長期間継続し、継続できれば、一度外用薬塗布を中止するとのこと。

外用薬中止後に、症状が出た場合は、週1回の外用薬塗布を継続するものとし、それ以外は保湿剤によるスキンケアへ移行するとのことです。

ということは、保湿剤のスキンケアへ移行できる患者がいる一方、症状が再燃する限り、週1回の外用薬塗布が永遠に続く患者もいると解釈できます。

また、週2回の間欠投与の状態に至るまでに基本は3か月かかるということであり、中止までの期間は個々の症例次第のようです。

要するに、「当初は」3か月の治療ということなのでしょう。

 

ところで、プロアクティブ療法を行っている間は、定期的にTARC値を測定することが必要であるとされています。潜在的な炎症の度合をモニタリングするためです。

皮疹が出ていなくても、TARC値が高いようであれば、目に見えない炎症が残っていると考えられています。

そのため、TARC値を正常値に下げることが必要とされるわけですが、例外なくTARC値をコントロールできるわけではないようです。

片岡氏は、TARC値が下がらず、寛解導入ができないままに、ステロイドの長期連用がなされていたケースを紹介しています。

TARC値が下がらないからと言って、半年間ぐらいの長期に渡って連日塗り続けているケースを目にすることがあります。ステロイドの長期連用は皮膚萎縮などの副作用をきたしますので、できるだけ短期間で寛解させ、TARC値を正常化させることが重要です。3)「プロアクティブ療法の課題とTARC測定の意義」(座談会 2016619シャングリ・ラホテル)

もしかしたら、これは稀なケースなのかもしれません。

ただ、片岡氏によるプロアクティブ療法の説明には、次のように注釈めいた言葉も見えるのです。

プロアクティブ療法の登場により、炎症のコントロールをしっかり行って寛解を長期維持し、一部の重症の人を除けば、スキンケアを中心とし、抗炎症外用薬は最小限ないしはほとんど不要で、皮膚の良い状態が維持できるようになるという “目指すべきゴール” が明確になってきました。4)「プロアクティブ療法の課題とTARC測定の意義」(座談会 2016619シャングリ・ラホテル)

「一部の重症の人を除けば」とあるように、すべての患者に対してプロアクティブ療法が有効であるとはいえず、「抗炎症外用薬は最小限ないしはほとんど不要で」とあるように、必ずしもステロイド外用薬等がまったく不要になるとまではいえないようです。

さらに言えば、プロアクティブ療法によって「皮膚の良い状態が維持できる」かもしれませんが、アトピー性皮膚炎が完治するわけではありません。

 

プロアクティブ療法は患者を “選ぶ”

最近、メディアが、アトピー性皮膚炎に対する新しい有効な治療法のひとつとして、プロアクティブ療法を紹介することが多くなりました。

しかし、メディアは、上述のように、プロアクティブ療法がすべての患者に対して有効とはいえない、患者を “選ぶ” 治療法である点を指摘していないようです。

ここで、患者を “選ぶ” という点について、もう少し掘り下げてみます。

 

プロアクティブ療法を始める前の問題

プロアクティブ療法について、日本のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン(2016)が参照している文献は、ステロイド外用薬との関連では次の5つがあります。

162 Peserico A et al. Br J Dermatol, 2008; 158: 801―807.
163 Hanifin J et al. Br J Dermatol, 2002; 147: 528―537.
164 Berth-Jones J et al. BMJ, 2003; 326: 1367.
165 Glazenburg EJ et al. Pediatr Allergy Immunol, 2009; 20: 59―66.
166 Van Der Meer JB et al. Br J Dermatol, 1999; 140: 1114―1121.

これら各文献において、プロアクティブ療法が有効であったとされるのは、プロアクティブ療法を始める「前」において、コントロールが良好であった患者なのです。

具体的には、プロアクティブ療法を始める「前」は、被験者は次のような状態でした。

162)「急性期における炎症の治療が成功した」
163)「治療成功を達成した患者」
164)「病気がアンダーコントロールとなった患者」
165)「4週間の治療後にアトピー性皮膚炎が寛解した子供」
166)「これらの治療によりアトピー性皮膚炎が完全に治癒した患者」

上記のような、急性期の治療に反応した患者群に対して、プロアクティブ療法を施したところ、同療法は有効であったということなのです。

つまり、ステロイドを連日のように塗っていても皮疹が治まらないようなコントロール不良の患者に対して、プロアクティブ療法が有効かどうかは評価されていません。

 

プロアクティブ療法を始めた後の問題

さらに、プロアクティブ療法を始めた「後」に、問題が生じないわけではありません。

ある調査においては、寛解した「後」に、プロアクティブ療法を受けた45人のうち、20人はプロアクティブ療法を継続することができなかったのです。

45 人の患者が適応基準を満たした。全ての患者が1〜2 ヶ月間の入院で寛解した。25 人で、1日2回のスキンケアとプロアクティブ療法を2年間継続し、プロアクティブ療法群に割付けられた。他の20 人はプロアクティブ療法を継続することが出来ずリアクティブ療法群に割付けられた。5)Fukuie T et al. Proactive treatment appears to decrease serum immunoglobulin‐E levels in patients with severe atopic dermatitis, Br J Dermatol. 2010.

実に半数近くの患者が、プロアクティブ療法から脱落し、リアクティブ療法に戻らざるを得なかったのです。

この「一部の患者はプロアクティブ療法を継続できなかった」というリスク情報は、極めて重要です。

しかし、この調査結果は、例えばシンポジウムにおいて、プロアクティブ療法の有効性の根拠として紹介されたりするのです。

リアクティブ療法とプロアクティブ療法の予後を比較したところ、2年後の成績はプロアクティブ療法の「圧勝」だったといいます。

けれども、このときのリアクティブ療法群は、プロアクティブ療法から脱落した患者群だったのですから、プロアクティブ療法群が「圧勝」したのは当然といえます。

 

プロアクティブ療法が、メディアに頻繁に取り上げられる療法だとしても、臨床導入されたばかりなのですから、データの集積を待って慎重に有効性を判断する必要があると思います。

成人と乳幼児では予後も異なることでしょう。

個人的には、症状の再燃かつTARC値の再上昇がなく、保湿剤のみのケアへ移行できる患者が、患者全体のうちどのくらいの割合であるかが重要な情報であると思います。

医師は、この情報を調査したうえで、プロアクティブ療法を開始する前の患者に提示すべきです。併せて、プロアクティブ療法が奏功しなかった場合の対策を提示すべきです。

他方、私は、プロアクティブ療法は結局のところ対症療法であり、寛解から症状再燃までの期間を長引かせるための治療にすぎないと捉えています。

そこで問題となるのは、長期治療に伴う治療薬の副作用リスクです。

長期にわたるプロアクティブ療法から脱落せざるを得なくなった場合、ステロイド等の離脱症状が生じるリスクがあると考えます。

このリスクについても、経過を見守りたいと思います。

 

<関連記事>

プロアクティブ療法はいつまで続ければよいのか?

プロアクティブ療法はいつまで続ければよいのか?(2)

 

<プロアクティブ療法についての参考記事>

プロアクティブ治療についてのまとめ – アトピー性皮膚炎のステロイド外用剤離脱

1983年のプロアクティブ療法 – アトピー性皮膚炎のステロイド外用剤離脱

http://www.sato-shonika.com/original18.html

 

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References   [ + ]

1. 「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版」
2. Werfel T et al. S2k guideline on diagnosis and treatment of atopic dermatitis – short version. Allergo J Int 2016;25:82–95.
3, 4. 「プロアクティブ療法の課題とTARC測定の意義」(座談会 2016619シャングリ・ラホテル)
5. Fukuie T et al. Proactive treatment appears to decrease serum immunoglobulin‐E levels in patients with severe atopic dermatitis, Br J Dermatol. 2010.

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