デュピクセントが効かなくなる?

最近、デュピクセントに関する情報で興味深いものを見つけました。デュピクセントを中止したあとに再開したところ、”効かなくなってしまった” というものです。

この情報は、次のリンク先にある患者の口コミです。

Discontinuation of Dupixent and Resistance from eczema

 

リンク先を確認したり、英語を読むのが面倒だという人のために、一部要約して翻訳引用します。

R氏「デュピクセントの中止から数か月・数年後に、ふたたびデュピクセントを使用できるのかな? それとも、どこかで読んだけど、中止によって身体がデュピクセントへの抵抗性をもつようになるのか?」

I氏「添付文書の情報からは、ほとんどの人にデュピルマブに対する抗体は作られないみたいだし、中和抗体も作られないみたいだ。でも、この場合、抗体が作られないのは、デュピクセントを中止しないで使い続けているからだと思うんだ。」

C氏「デュピクセントは生物学的製剤だから、もし君が長期間にわたり中止すると、君の身体は抗体に対する免疫を獲得する良いチャンスを得ることになる。免疫の程度は人によって違うし、薬を投与しない期間にもよるけれど、違いに気づかないくらいの人から、薬に対する完全な免疫を得る人までさまざまだろう。一般的には、多くの人は、デュピクセントの効果減弱につながる中等度の免疫を獲得するのだと思う。」

M氏「私が治験に参加したとき、デュピクセントからプラセボに替わったことがあった。すると、湿疹は再び悪化し始めて、そのフェーズの終了時点にデュピクセントを再投与するまで悪化し続けた。それ以降、その研究フェーズの終了時点の状態よりも、デュピクセントが私の湿疹を良くすることはなかった。それから私はデュピクセントを使っていない。どうやら私はプラセボの投与を受けたフェーズの間に免疫を獲得してしまったみたいなんだ。」

Z氏「私とまったく同じだ。デュピクセントの4か月の治験で、皮膚は完全にきれいになった。でも次の長期の治験の前に4か月間デュピクセントを中止しなければならず、その間に湿疹は完全にぶり返した。その後、2年間デュピクセントを使い続けたけど、最初のようにはきれいにならなかった。私は4か月の間に免疫を獲得したんだといわれたよ。」

H氏「ニューヨークでデュピクセントの治験を行った臨床医は、治験中にプロトコルのためデュピクセントをやめざるをえなかった患者に抗体が作られて、デュピクセントが効かなくなったと話していたよ。その医師は、もしデュピクセントを始めるなら、原則的には永遠に続けなければならないと言ってた。デュピクセントでひどい湿疹を治した患者の話を聞かせてもらったんだけど、その患者はデュピクセントを8か月間中止したあと、湿疹が再発して、まぶたの内側にも発疹ができて、手術が必要かもしれないくらいだった。でもその患者はウパダシチニブの治験に参加して、その薬でとても順調にやっているのでハッピーエンドだったんだけど。」

デュピクセントの中止によりデュピクセントに対する抗薬物抗体が身体につくられるかもしれないこと、そのためにデュピクセントが効きにくくなるかもしれないこと、それを防ぐためにデュピクセントを投与し続ける必要があるかもしれないこと、などが指摘されています。

こうした情報からもうかがえるように、アメリカでは、デュピクセントは中止せずにずっと投与すべきという考え方があります 1)Q & A: Introducing Biologics with Dr. Paul Yamauchi

生物学的製剤の効果減弱(二次無効)は珍しい話ではなく、先行する関節リウマチや乾癬の分野では観察されており、その一因に抗薬物抗体の発現があるとみられています。

 

とすると、日本の最適使用推進ガイドライン(デュピルマブ 平成30年4月)における、「一時中止等を検討すること」という記述が妥当なのか疑問に思います。

ある程度の期間(6カ月を目安とする。)寛解の維持が得られた場合には、これら抗炎症外用薬や外用保湿薬が適切に使用されていることを確認した上で、本剤投与の一時中止等を検討すること。

厚生労働省がなぜ一時中止をさせたがるのか、真意はわかりません。医療費抑制のためでしょうか。

デュピクセントにより患者が寛解したとしても完治したわけではないでしょうから、患者が望むなら、健康保険制度のもと一生投与を受けられるようにすべきと思います。

デュピクセントの中止と再開を前提としている日本のガイドラインは、生物学的製剤の性格にそぐわない気もしますが、どうなのでしょうか。

ともあれ、デュピクセントを一時中止した患者が再開するとどうなるのか、日本における報告が注目されます。

 

ところで、医療費抑制という観点からは、一時中止等で期間を制限するよりも、投与対象患者数をより厳密に制限した方が良い気がします。

なぜなら、デュピクセント使用患者が、使用前後の画像をネットに公開しているのを時折見かけるのですが、軽症にみえることがあるからです。

ガイドラインにおいて、デュピクセントはステロイド等と併用するものとされているので、現在デュピクセントを使用しているのは標準治療を受けている患者のはずです。

そして、標準治療を受けているということは、ステロイド等に対する依存が生じていないか、依存の程度が弱い患者であり、症状をコントロールし得る患者と思われます。

とはいえ、完治はせずに6か月以上治療を行っているでしょうから、そこで医師が疾患活動性を厳密に評価しなければ、軽症でも投与対象となる素地があります。

実際には、医師の視診による診断がまちまちのために、重症度に基づく選択が形骸化しているとみられます。

そのため、重症度にかかわらず、標準治療を受けており、かつ、経済的余裕のある患者が、デュピクセントを使用しているのではないでしょうか。

これに対しては、治療法を問わず、検査数値で対象患者を選択した方が良いように思います。

相対的に人数が多いと考えられる軽症患者に投与され得るとすれば、医療費の増大につながるおそれもあります。

 

一方、中等症から重症の患者というのは、ステロイド等への依存が強いために薬でなんとか抑えているか、シクロスポリン内服に至った患者、または依存による再燃等に耐えきれず脱ステロイドをした患者に多いと考えられます。

このうち、脱ステロイド患者は、デュピクセントを使用したくても、ステロイドの併用原則があるために躊躇してしまう患者が多いでしょう。

けれども、依存が生じやすいために、ステロイドという治療手段が有効でない脱ステロイド患者にこそ、デュピクセントが必要ではないかとも考えられます。

ガイドラインにおけるデュピクセントの投与対象患者についての文言、

「抗炎症外用薬による治療では十分な効果が得られず、一定以上の疾患活動性を有する成人アトピー性皮膚炎患者」

というのは、まさにステロイド外用剤に依存を生じて脱ステロイドせざるを得なかった患者に当てはまります。

しかし、デュピクセント治療開始前に抗炎症外用薬による治療を「直近の6カ月以上行っている」という要件が立ちはだかり、治療中も抗炎症外用薬を併用して用いることとされているので、ステロイドを使いたくない患者にとって、デュピクセントは手の届きにくいものとなっています。

依存が生じやすい患者にステロイド外用薬等を使用するのは不合理ですし、そもそもデュピクセントを抗炎症外用薬に上乗せして使用するという基本概念は誤っていると思います。

ガイドライン策定関係者に、ステロイド外用薬依存への理解が足りないのでしょう。

思うに、何十という患者を一日に診たとしても、何百という医学書を読み込んでも、あるいは何千という論文に目を通そうとも、ステロイド外用薬依存(TSA)やステロイド外用薬離脱症候群(TSW)への認識が乏しいならば、その医師には、いわゆるアトピーに携わる資格はありません。

 

最後に、ウパダシチニブについて。

先に引用した口コミで、デュピクセントによる治療がうまくいかなくなった後、ウパダシチニブで良好な経過が得られたという患者の話がありました。

ウパダシチニブは、米アッヴィが開発中の JAK1 阻害薬です。関節リウマチなどのほか、アトピー性皮膚炎にも適応とすべく研究が行われています。

2018年1月には、米FDAからアトピー性皮膚炎に対する画期的治療薬(ブレーク・スルー・セラピー)の指定を受けました。

分子標的治療薬のなかでも、デュピルマブ(Dupilumab)は抗体薬ですが、ウパダシチニブ(Upadacitinib)は、ヤヌスキナーゼ(JAK)という酵素の活性を阻害する低分子化合物の薬です。

また、デュピルマブのような注射薬ではなく、1日1回の経口薬です。

2017年の第Ⅱ相試験では、ウパダシチニブ 30mg/1 日投与群において、16週時点で、湿疹が消失またはほぼ消失(IGAスコア 0 または 1)したのは50%でした。また、EASI-90達成率は50%、EASI-75達成率は69%でした 2)AbbVie’s Upadacitinib (ABT-494) Meets Primary Endpoint in Phase 2b Study in Atopic Dermatitis

デュピクセントのCHRONOS試験では、デュピクセント 300mg/2 週+ステロイド外用薬投与群において、16週時点で、湿疹が消失またはほぼ消失(IGAスコア0または1)したのは38.7%でした。また、EASI-90達成率は39.6%、EASI-75達成率は68.9%でした。

単純に数値で比較すると、ウパダシチニブはデュピルマブに勝るとも劣らない成績です。投与群の半数でEASI-90達成は魅力的です。そして何より上記の成績は、ウパダシチニブは単剤投与によるもの、デュピルマブはステロイド外用薬と併用した場合です。

ところで、デュピクセント+ステロイドによるEASI-90達成率4割とEASI-75達成率7割というのは、私が今まで見た限りの使用患者の声と整合的である印象を受けます。

つまり、すごく良くなるのが4割、ある程度良くなるのが7割、しかしステロイドやプロトピックは手放せない、という感じです。

ただし、”すごく良くなった” という人の使用前後の画像を見ると、皮疹が消失して本当に良くなっている人もいますが、皮疹が残っている人もおり、高額治療によるバイアスがかかった報告かもしれず、判断し難い面もあります。

さて、今年2018年には、アトピー性皮膚炎を対象としたウパダシチニブの第Ⅲ相試験が開始予定です。

ひとつ気になるのが、ウパダシチニブをステロイド外用薬と併用する試験も組まれているので、この試験成績が良かった場合(良いに決まっているでしょうが)、デュピクセントと同様、ステロイドと併用して用いる方法が推奨されてしまうのではないかと心配です。

また、JAK-STAT経路を阻害することの安全性はどうなのか、薬価はどうなるのか、検討事項は諸々ありますが、いずれにしても、治療の選択肢が増えることは良いことと思います。

なお、同様のJAK阻害薬として、米イーライリリーのバリシチニブ(Baricitinib;  JAK1/2 阻害薬)があり、アトピー性皮膚炎については第Ⅲ相試験の段階にあります。

 

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  1. ピンバック: アトピー新薬を語る6

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