ウィキペディア「アトピー性皮膚炎」への違和感

久しぶりにウィキペディアの「アトピー性皮膚炎」のページを見ていたら、おかしな記述がちらほら見られたので、覚書としておきます。

なお、私がアクセスしたのは、『ウィキペディア日本語版』の「アトピー性皮膚炎」(2018年2月20日 (火) 00:51 UTCの版)のページです。

まず、冒頭のアトピー性皮膚炎の定義に違和感がありました。

アトピー性皮膚炎(アトピーせいひふえん、英語: atopic dermatitis)とは、アレルギー反応と関連があるもののうち皮膚の炎症を伴う[1]もの。アトピー性湿疹(英語: atopic eczema)と呼ぶ方が適切である[2]。

[1] 参考リンク
[2] 世界アレルギー機構(WAO/欧州アレルギー・臨床免疫学会議(EAACI)によるアレルギーの定義(世界アレルギー機構)

この定義の脚注 [1] には、参考リンクとしてアメリカ皮膚科学会のガイドラインへのリンクがあります。つまり、アメリカ皮膚科学会の定義が示されているものと思わせます。

しかし、リンク先のアメリカ皮膚科学会の定義を確認すると、次のようにあります。

DEFINITION
AD is a chronic, pruritic inflammatory skin disease that occurs most frequently in children, but also affects many adults. It follows a relapsing course. AD is often associated with elevated serum immunoglobulin IgE levels and a personal or family history of type I allergies, allergic rhinitis, and asthma. Atopic eczema is synonymous with AD.

定義
アトピー性皮膚炎は、小児に最も多く生じ、多くの成人にも生じる、慢性・掻痒性の炎症性皮膚疾患である。それは再発性の経過をたどる。アトピー性皮膚炎はしばしば、血清免疫ブロブリンIgE値の上昇、Ⅰ型アレルギーの個人歴または家族歴、アレルギー性鼻炎、喘息と関連する。アトピー性湿疹はアトピー性皮膚炎の同義語である。

このように、脚注のリンク先のアメリカ皮膚科学会の定義には、まったく異なる記述がなされているのです。

つまり、ウィキペディア日本語版における「アトピー性皮膚炎」の定義が、誰によるものなのかが不明なのです。

さらに、ウィキペディアの記述には、アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)という呼び方について、

「アトピー性湿疹(英語: atopic eczema)と呼ぶ方が適切である。」

とあります。これは、世界アレルギー機構 (WAO) の定義を根拠としています。

しかしながら、WAOの定義のみをもって、アトピー性湿疹と呼ぶ方が適切であるという主張については、現時点ではコンセンサスは得難いと思われます。

国によって、一般に浸透している病名は異なります。日本では「アトピー性皮膚炎」という呼び方が浸透しており、その名のもとでガイドラインが設けられています。

また、アメリカ皮膚科学会のガイドラインもアトピー性皮膚炎という用語を用いており、「アトピー性湿疹」は「アトピー性皮膚炎」の同義語とされています。

さらに、Feinberg School of Medicine の Silverberg 氏らは、次のように提唱しています。

Atopic dermatitis is the most commonly used term and appears to be increasing in popularity. Given that eczema is a nonspecific term that describes the morphological appearance of several forms of dermatitis, we strongly suggest the use of a more specific term, AD, in publications, healthcare clinician training, and patient education. 1)Silverberg I J et al. Atopic dermatitis, atopic eczema, or eczema? A systematic review, meta‐analysis, and recommendation for uniform use of ‘atopic dermatitis’. Allergy, Volume71, Issue10, October 2016, Pages 1480-1485.

アトピー性皮膚炎は、最も一般に使用されている用語であり、支持を集めているとみられる。湿疹が、皮膚炎のいくつかの形態の形態学的外観を言い表す非特異的用語であるとすれば、我々は、出版、臨床医教育や患者教育において、より特異的な用語である、アトピー性皮膚炎の使用を強く提案する。

このように、「アトピー性湿疹」ではなく「アトピー性皮膚炎」という用語を使用すべきだという意見もあるのです。

それだけに、ウィキペディアにおける断定的な物言いには、違和感を感じざるを得ません。

以上は、まだ違和感の範囲です。しかし、問題を感じる記述もありました。

アトピー性皮膚炎の発症原因に関する次の記述です。

アトピー性皮膚炎のリスク排除の第一手段として乳児の完全母乳哺育が推奨されており、乳児の牛乳たんぱく質への暴露はその発症リスクの一因と考えられている[4]。

[4] Alexander DD, Schmitt DF, Tran NL, Barraj LM, Cushing CA (2010). “Partially hydrolyzed 100% whey protein infant formula and atopic dermatitis risk reduction: a systematic review of the literature”. Nutrition Reviews 68 (4): 232–45. doi:10.1111/j.1753-4887.2010.00281.x. PMID 20416019.

アトピー性皮膚炎のリスクを排除するために、完全母乳が推奨されているといいます。そのうえ、牛乳がアトピー性皮膚炎の発症リスクであると主張しています。

ともあれ、根拠とする論文を確認してみると、結論としては、牛乳よりも母乳が良く、母乳が利用できない場合は、100%ホエープロテイン部分加水分解乳 (PHF-W)が乳児のアトピー性皮膚炎のリスクを減らすかもしれないとありました。

さらに論文を確認すると、この研究は、ネスレから一部資金提供等を受けたものでした。そして、ネスレはPHF-Wの製造業者です。

一方、部分加水分解乳において、アレルギーのリスクを低減するエビデンスは認められなかったとする研究もあります 2)https://medley.life/news/5702641e15081967008b4635/

米国小児科学会によれば、小児期における4か月の母乳哺育は、牛乳タンパク質により作られたミルクと比較して、アトピー性皮膚炎、牛乳アレルギー、喘鳴を、予防または遅らせるというエビデンスはあるとしながら、一方で、月齢4から6か月以降のアトピー性皮膚炎の発症に予防効果のある食事介入を示すデータは不十分であるとしています 3)Greer F R et al. Effects of Early Nutritional Interventions on the Development of Atopic Disease in Infants and Children: The Role of Maternal Dietary Restriction, Breastfeeding, Timing of Introduction of Complementary Foods, and Hydrolyzed Formulas. Pediatrics. 2008 Jan;121(1):183-91.

そもそも、アトピー性皮膚炎が多因子疾患であるとされているところ、牛乳を避けて母乳哺育をしたとしても、完全に発症リスクを排除できるわけではありません。

以上を勘案すると、私は「アトピー性皮膚炎のリスク排除の第一手段として乳児の完全母乳哺育が推奨されており」という表現は、母乳哺育をしさえすればアトピー性皮膚炎を防げるという誤解を招きかねず、不適切であると思います。

一般にウィキペディアは相当に信頼性の高い情報源であるとみなされていると思います。しかし、こと「アトピー性皮膚炎」のページにおいては、「ステロイド外用薬とアトピービジネス」の項目を筆頭に、根拠薄弱な記述が多いように感じます。

最近、フェイクニュースが話題となっています。インターネット上の情報に接する際には、疑いをもって読まなければならない時代に入ったのだという実感を強くします。

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References   [ + ]

1. Silverberg I J et al. Atopic dermatitis, atopic eczema, or eczema? A systematic review, meta‐analysis, and recommendation for uniform use of ‘atopic dermatitis’. Allergy, Volume71, Issue10, October 2016, Pages 1480-1485.
2. https://medley.life/news/5702641e15081967008b4635/
3. Greer F R et al. Effects of Early Nutritional Interventions on the Development of Atopic Disease in Infants and Children: The Role of Maternal Dietary Restriction, Breastfeeding, Timing of Introduction of Complementary Foods, and Hydrolyzed Formulas. Pediatrics. 2008 Jan;121(1):183-91.

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