アトピー性皮膚炎に関わる訴訟(2)補記

前回の記事「アトピー性皮膚炎に関わる訴訟(2)」の補記です。

裁判所(裁判長裁判官 片山良広、裁判官 森脇江津子 小川卓逸)は、同訴訟の争点に対してどのような判断を下したのでしょうか。

判決文を確認するとともに、個人的感想を述べます。

なお、この判決後、控訴審では和解が成立しています。言及するのは第一審の判決内容についてのみです。

 

(以下、判決文中の事実及び理由の第三の三を抜粋)

三 被告Eの治療行為上の過失について(争点(1))

(1)ステロイド外用薬を使用しない治療法の適切性

患者に対する個別の診療行為を離れて、アトピー性皮膚炎の治療法それ自体の医学的当否を論じることは、裁判所の役割ではないし、本件において必要なことでもない。

(2)被告Eの個々の治療行為の適切性

ア 前記の医学的知見によれば、アトピー性皮膚炎は増悪と寛解を繰り返して慢性に経過する疾患であり、その治療の目標は、皮膚症状をコントロールして日常生活になるべく支障のない状態にすることにある。

そのために、アトピー性皮膚炎の治療においては、対症療法により痒み止めと湿疹の治療をすることに重点が置かれ、掻破行為による症状の悪化を避けるため皮膚を刺激しないことが重視される。

イ イソジン液による消毒について

イソジン液による皮膚の消毒は、皮膚の乾燥を助長させ、掻破痕のある病変部に対しては易刺激性があって、アトピー性皮膚炎の悪化因子となると考えられている。

ウ プロトピック軟膏の塗布について

プロトピック軟膏は、優れた免疫抑制作用を持つ化合物であるタクロリムスを含むアトピー性皮膚炎治療用の外用薬である。免疫抑制剤として初めての外用薬であり、ステロイド外用薬とは異なる新しいタイプの外用薬であって、皮膚萎縮などの局所的副作用は生じない。

しかし、その添付文書には、「警告」として、(1)びらんや潰瘍面(掻破痕を含む)に使用した場合は、血中濃度が高くなって腎障害などの副作用が発現する可能性があるので、びらんや潰瘍面を有する患者では、あらかじめステロイド外用薬で治療するなどの処置を講じ、びらんや潰瘍面の改善を確認した後に使用を開始すべきこと、(2)乳児、幼児や小児ではこの薬剤の使用経験がないため、経皮吸収については不明であり、安全性も確立されていないので使用しないことという記載がある。また、「重要な基本的注意」として、使用後、一過性に皮膚刺激感(灼熱感、ほてり感、疼痛、そう痒感など)が高頻度に認められるが、通常、皮疹の改善とともに発現しなくなるので、皮膚刺激感があることについて患者に十分説明すべきことなどが記載されている。

また、タクロリムス軟膏の使用ガイダンスにも、同様に、アトピー性皮膚炎という病態では、損傷した角質層を透過して薬剤が血中へ移行することは避けられないから、経皮吸収のバリアとなる表皮が損傷しているびらんや潰瘍面に対しては、あらかじめステロイド外用薬などを使用し、表皮の修復を確認した後に使用を開始することが肝要であるという記載がされている。

使用した場合の刺激感の程度については、患者によってはかつて経験したことのないような、かなり激しい場合も予想され、火箸で皮膚をかき回されているとか、唐辛子を擦り込まれたような刺激感を感じるという場合もあるといわれている。

エ アクアチムクリームの塗布について

アクアチムクリームは外用抗菌剤であり、添付文書には「使用上の注意」として、使用経験が少なく乳児や幼児に対する安全性は確立していないという記載があり、「副作用」として、そう痒感、刺激感、皮膚乾燥などが記載されている。

本来はおできやざ瘡などの皮膚感染症に使用される薬剤であり、アトピー性皮膚炎の治療に使用した場合には、有効性は期待できず、むしろ刺激感があることが問題であるといわれている。

オ ニゾラールクリームの塗布について

ニゾラールクリームは外用抗真菌剤であり、その添付文書には「使用上の注意」として、使用経験が少なく未熟児、新生児に対する安全性は確立していないという記載があり、「副作用」として、接触皮膚炎、刺激感、そう痒などが記載されている。

カ 以上のとおり、イソジン液による消毒や、プロトピック軟膏の塗布、アクアチムクリームの塗布、ニゾラールクリームの塗布は、それぞれ強弱はあるにせよ、いずれも皮膚に対して刺激感やそう痒感を与えるものである。

これに、前記の医学的知見や被告医院での治療中の原告Aの皮膚症状の経過を併せて考えると、結局、被告Eが実施したこれらの治療行為は、アトピー性皮膚炎の治療における「痒み止め」や「掻破行為による症状の悪化を避けるために皮膚を刺激しないこと」という目的に相反し、かえって掻破行為を助長し、結果として原告Aの皮膚症状を著しく悪化させて、全身衰弱をもたらしたものといわざるをえない。

診療の際の被告Eの言動や添付文書などの記載によれば、被告Eは医師として、これらの治療行為がいずれも皮膚に刺激感やそう痒感を与えるものであって、原告Aのアトピー性皮膚炎の皮膚症状を悪化させることがあることを知り、又は知ることができたというべきであるから、被告Eには、これらの治療行為を実施したことについて過失がある。

(3)被告Eの治療行為と症状悪化との因果関係

ア 被告らは、原告Aの症状の悪化は、ステロイド外用薬の使用を中止したことによるリバウンドが原因であると主張する。

しかし、前記の医学的知見のとおり、リバウンドとは、本来、内服によるステロイドの大量摂取を急に中止することによって発生する原疾患の悪化を指すものであり、ステロイドを外用していた本件においては考えにくいことである。ステロイド外用薬の経皮的吸収についてのリバウンド現象を考えるとしても、原告Aが被告医院を受診するまでの診療経過によれば、ステロイド外用薬の使用中止によるリバウンドが生じたとは到底考えられない。

イ 本件における原告Aの皮膚症状の悪化は、いずれも被告Eの治療行為によるものと認められ、そのために金沢大学病院への入院とその後の通院を余儀なくされたものと認めることができる。

(事実及び理由の第三の三の抜粋は以上)

 

以下、個人的感想です。

(1)「ステロイド外用薬を使用しない治療法の適切性」について

まず、裁判所は、脱ステロイド療法の適切性については判断を避けました。

「アトピー性皮膚炎の治療法それ自体の医学的当否を論じることは、裁判所の役割ではないし、本件において必要なことでもない」と述べています。

これは、判決結果を除けば、脱ステロイド療法を実践している医師や患者にとってはひとまず安堵できる内容だったと思います。脱ステロイド療法それ自体が不適切であるとは認められませんでした。

これはまったくの推測ですけれども、「アトピー性皮膚炎に関わる訴訟(1)」で紹介した東京地裁の判例が、当判決に一部影響を与えたのかもしれません。

同判例は、「ステロイド外用剤の実用性については、医学上、必ずしも意見の一致を見ていない」と述べています。

(二)ステロイド外用剤は、優れた抗炎症作用を有し、アトピー性皮膚炎の外用療法の中で最も有用かつ重要であり、今日その治療のためには必要不可欠なものとされている。しかし、アトピー性皮膚炎が慢性に経過する皮膚疾患であり、ステロイド外用剤も長期にわたり使用されることが多いため、その使用法を誤ると、局所的副作用としてステロイド性皮膚炎を起こすことがある。

そのため、アトピー性皮膚炎が難治性であること、ステロイド外用剤の薬効が著しいことなどから、アトピー性皮膚炎の治療のためには、副作用に注意しながらもステロイド外用剤の使用が必須だとの意見が存在する一方で、ステロイドの副作用を懸念して、ステロイド外用剤の使用に消極的な意見も存在するなど、ステロイド外用剤の実用性については、医学上、必ずしも意見の一致を見ていない。

医学上の意見の一致を見ていない事象に対して、医学の専門家ではない裁判所が口出しするものではないということでしょう。

では、現在の医学的知見はどうでしょうか。

私は、2016年に発表された次の論文を無視することはできないと思います。

Fukaya M et al. A prospective study of atopic dermatitis managed without topical corticosteroids for a 6-month period. Clin Cosmet Investig Dermatol. 2016; 9: 151–158.

この論文は、ステロイドを使用する治療よりも、ステロイドを使わない治療の方が、個々の患者次第では、6か月後の改善率が高いことを示唆するものです。

この論文によって、ステロイド外用剤の実用性について医学上の意見が一致するわけではありません。しかし、個々の治療行為において、ステロイドを使わない方が治療効果が高い場合があることの根拠となります。

また、2016年版のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインにおいて、次の記述が書き加えられたことも無視することはできないでしょう。

本ガイドラインは,症例毎の事情を踏まえて行われる医療行為の内容がここに記載されているものと異なることを阻むものではなく,医療者の経験を否定するものでもない.また逆に,本ガイドラインに記載されている内容が実施されないことをもって,実際の診療にあたる医師の責任を追訴する根拠に資するものでもない

 

(2)「被告Eの個々の治療行為の適切性」について

一方で、裁判所は、被告が行なった個々の治療行為については、被告に過失があったと認めました。

イソジン液、プロトピック軟膏、アクアチムクリーム、ニゾラールクリームによる治療行為が、「かえって掻破行為を助長し、結果として原告Aの皮膚症状を著しく悪化させて、全身衰弱をもたらしたものといわざるをえない」と述べています。

私は、これらすべての薬剤を使用した経験のある者として、この裁判所の判断はとても信じられません。

私の感覚でいうと、ストロングクラスのステロイド外用薬が皮疹に与える影響の強さを10とすれば、プロトピック軟膏は6~7くらいで、イソジン液、アクアチムクリーム、ニゾラールクリームは0~1くらいです。

何が言いたいかというと、ステロイド外用薬の影響の強さに比して、イソジンやアクアチムやニゾラールなどの影響は小さいものにすぎないということです。

これら3つの薬剤を通常に使用する限り、皮膚症状が著しく悪化して全身衰弱がもたらされるとは思えませんし、ステロイドと同列に論じることは誤っていると思います。

プロトピック軟膏については、刺激感が掻破行動に結び付くとは限りません。また、裁判所はプロトピック軟膏がそう痒感を与えたと判断したようですが、プロトピック軟膏が免疫抑制効果に加えてそう痒を抑える効果が期待されている薬剤であるところ、同薬の塗布が実際に掻破行動に結び付いたかどうかの検討が不十分です。

とはいえ、プロトピック軟膏は強い薬ですから、その影響を注意深く検討すべきでしょうけれども、ステロイドの影響の陰に隠れて事実上不可能かもしれません。

そこで、ステロイド外用薬です。

実際に使用した人でなければその皮膚感覚は理解できません。ステロイドは、実に劇的な治療効果をもたらします。その反面、副作用も強いです。まさに諸刃の剣です。

個々の治療行為として重視すべきは、第一にステロイド外用薬による治療です。

私は、判決文を読む限り、原告の皮膚症状を著しく悪化させた原因は、ステロイド外用薬の使用を中止したことによるリバウンドであると推測します。

原告の方のステロイド外用薬中止後の経過は、典型的なリバウンドの経過に思われます。私も以前経験したリバウンド時に似たような経過をたどっています。

広範囲の皮膚腫脹、滲出液、繰り返される落屑、発熱、悪寒、寝たきり、おさまらない微熱、眉毛・頭髪の脱毛、高度の苔癬化、リンパ節腫脹などです。

原告の方は、さらに血便と乏尿、全身衰弱、紅皮症状態にもあったようで、私が経験したよりも大変な苦労を小さな子供がしていたと思うと、本当に心が痛みます。さぞ辛かったろうと思います。また、それを看病していたご両親の辛さはいかほどだったでしょう。その後の経過が良いことを祈るばかりです。

 

一方で、脱ステロイド療法の観点からは、被告の治療内容が突飛であるとも思えません。ステロイドを使用しないのですから、経過を見守るほかありません。ただし、治療中に原告に対し丁寧に説明をしていたかどうかは問われるべきでしょう。

感染症を防ぐためにイソジン液やアクアチムクリームを使用したのでしょうし、脂漏性皮膚炎を合併していたのであればニゾラールクリームは有効でしょう。その他、モクタールやアズノールは抗炎症効果を期待して処方したのでしょう。保湿剤の中止は保湿依存のリスク回避であり、緊急的にステロイドを一時再使用することも理解できます。

レーザー治療の是非、プロトピック軟膏による皮疹増悪の可能性、40℃以上発熱時の対応の是非については、私にはわかりませんのでコメントできません。リバウンド時の高熱には敗血症の可能性があると指摘されており、慎重を期すべきようです。

いずれにせよ、もし前医で処方されていたステロイドを、診察なしに郵送されるままに、何年も塗り続けたのちに、使用を中止すべき副作用が生じた場合、さらにひどい経過をたどった可能性は否定しきれません。

被告医院でステロイドから一時離脱し、いったん休薬期間が設けられたことで、その後の経過が緩和された可能性は否定しきれません。

ところで私は、被告が診察する前までに、漫然とステロイドを処方し続けた医師たちの治療の影響が詳細に検討されないことを疑問に思います。

金沢大学病院及び東京逓信病院における治療で寛解といえる状態に至っているのですから、被告医院を受診する前にも、寛解導入できた可能性は否定できません。

判決文のみからは判然としませんが、被告医院受診前の月1~2回の塗布回数と、入院後の3か月に0回の場合もある塗布回数とでは、雲泥の差です。

そして、月1~2回とはいえ、ランクⅢのステロイド治療が2年余と長期化したために、ステロイド中止後の症状悪化の程度が高まった可能性も否定できません。

 

私は、ステロイドが最も症状を左右する因子なのであるから、そのステロイドの使用可否を決定する際に、医師が患者に対して説明義務を果たしたかどうかが最大の争点であったと考えます。

その観点からは、ステロイド中止後の症状悪化のリスクを医師が患者に説明したかどうか、患者がリスクを認識したうえで自ら脱ステロイド療法を選んだかどうかが重要な点です。

資料によれば、原告側は「脱ステロイド療法の希望はしていない。」と主張。

また、「ひどい症状が出ると知っていれば、ステロイド外用薬の使用中止を希望しなかった。被告Eは、初診時に、ステロイド外用薬の使用を中止すればどのような症状が起こりうるかの説明を尽くしたうえで、原告らの同意を得て治療をすべきであったのに、その説明を怠った。原告らが2回目の診療時に、リバウンドについて説明を受けた事実はない。」と主張しました。

被告側は、原告側が「ステロイド外用薬を使用しない治療法を希望していた。」と主張。

また、被告Eは「2回目の診療時に、写真を見せて、リバウンドについて説明し、原告らの同意を得て治療を行った。」と主張しました。

私は、この双方の主張を丁寧に検討することが必要であったと思います。

しかしながら、「皮膚症状を著しく悪化させて、全身衰弱をもたらした」のは、ステロイド外用薬の中止ではなく、イソジン液、プロトピック軟膏、アクアチムクリーム、ニゾラールクリームによる治療行為であると裁判所が判断したことは、正鵠を得ていないようにみえ、大変に残念に思います。

 

(3)被告Eの治療行為と症状悪化との因果関係について

裁判所は、「本件における原告Aの皮膚症状の悪化は、いずれも被告Eの治療行為によるものと認められ」、と述べています。

この裁判所の判断は、先述したように、私は誤りであると思います。原告Aの皮膚症状の悪化はステロイド外用薬によるリバウンドであると思います。

判決文を読むと、裁判所が、当時の日本皮膚科学会によるアトピー性皮膚炎治療ガイドラインと、薬の添付文書を、判断の主な根拠としていることがわかります。

そのガイドラインがリバウンドを認めていないので、裁判所もリバウンドを認めなかったのでしょう。

 

判決文から、症状悪化とリバウンドとの因果関係を否定した部分を抜粋します。

リバウンドとは、本来、内服によるステロイドの大量摂取を急に中止することによって発生する原疾患の悪化を指すものであり、ステロイドを外用していた本件においては考えにくいことである。

そもそもリバウンドのメカニズムはわかっていないのですから、このリバウンドの定義が正しいとはいえません。ステロイド外用薬でリバウンドは生じないという仮説は立証されていません。

続きを抜粋します。

ステロイド外用薬の経皮的吸収についてのリバウンド現象を考えるとしても、原告Aが被告医院を受診するまでの診療経過によれば、ステロイド外用薬の使用中止によるリバウンドが生じたとは到底考えられない。

内服と同程度に全身的に吸収されなければリバウンドが生じないとするのは仮説ですし、ランクⅢのステロイド外用薬を2年半余にわたり定期的に塗布していたのですから、中止によってリバウンドが起こることは十分考えられます。

 

さらに、裁判所はどのような医学的知見に基づき、ステロイド外用薬とリバウンドとの因果関係を否定したのでしょうか。

判決文にある医学的知見のうち「ステロイドによるリバウンド現象」部分を抜粋します。

ステロイドを内服した場合、大量の副腎皮質ホルモンが血液中に吸収されるためにホルモンを分泌する副腎の働きが著しく抑制され、結果として、副腎不全、糖尿病、ムーンフェイスなどの全身的副作用を生じることがある。

大量のステロイドの内服を続けた後でステロイドの内服を急に中止すると、副腎の働きが抑制されているため、ステロイドが体内にまったく存在しない状態になる。その結果、それまでステロイドによってコントロールされていた炎症がコントロールされなくなり、ステロイドを内服する以前の状態よりも症状が悪化する。これを、リバウンド現象という。

イ ステロイドを外用する場合には、血液中に吸収されるステロイドの量は微量であるため、内服した場合のような全身的副作用は通常生じない。ステロイドを外用した場合に、副腎の分泌するステロイド産生量はほとんど変化しないことが確認されている。(中略)

ステロイドによるリバウンド現象は、このようにステロイドを内服して大量摂取した場合に問題とされるものであって、ステロイドを外用薬として使用した場合には、リバウンドが生じることはほとんど考えられない。

この知見は、判決当時の2003年であれば、ある程度、通用したかもしれません。

 

けれども、世界中で、ステロイド外用薬によるリバウンド(ステロイド離脱症候群、レッドバーニングスキンシンドローム)の報告が積み上げられています。

ステロイドによるリバウンド

ニュージーランドにおける依存とリバウンド

Hajar T et al. A systematic review of topical corticosteroid withdrawal (“steroid addiction”) in patients with atopic dermatitis and other dermatoses. J Am Acad Dermatol. 2015 Mar;72(3):541-549.

また、副腎のみならず皮膚にもコルチゾール産生に係るフィードバック機構が機能していることがわかってきています。内服薬のみならず外用薬にも、皮膚のコルチゾール恒常性維持にかかわる直接的な影響があると考えられます。

アトピー性皮膚炎患者へのステロイド外用は表皮におけるコルチゾールの恒常性に影響を与える

リバウンドのメカニズム

さらに、海外では、添付文書にリバウンドについて記載のあるステロイド外用薬もあります。

オランダLarebがステロイド離脱症候群の報告を受理

以上を総合的に勘案すれば、当判決において採用された当時の医学的知見は、現時点では通用しないでしょう。

 

医学的知見についての補記

ステロイド外用薬の経皮吸収率について

ステロイド外用薬では、血液中に吸収されるステロイドの量は微量であると主張されることがあります。

しかし、「局所皮膚適用製剤の後発医薬品のための生物学的同等性試験ガイドラインQ&A」には次のようにあります。

ステロイド外用薬は,薬効の程度によってstrongest, very strong, strong, medium, 及びweak の5群に分類される.一般に,薬効の大きい外用剤ほど副腎皮質機能抑制効果も強く現れるといわれており,外用薬による副作用としては,骨量の減少,発育障害(小児),副腎皮質機能低下などが報告されている.ステロイドの経皮吸収率は正常な皮膚の場合,3~5%,ODT 療法では約28%,さらに角層を剥離した皮膚では塗布後4~6 時間に78~90% が吸収されるといわれている.また,皮膚のバリア機能に異常をきたしている皮膚病変部では,ステロイドの吸収率が著明に増大することが報告されている.ステロイド外用薬による全身性副作用は,主に視床下部,下垂体及び副腎皮質におけるその機能がどの程度抑制されるかによって評価されるが,strong に分類されるステロイド外用薬では,単純塗布で20g/日,ODT 療法では10g/日によって副腎皮質機能抑制が生じ,strongest に分類されるものでは,単純塗布で10g/日,ODT 療法では5g/日によって副腎皮質機能抑制が生じることが報告されている.
以上のことから,作用の強力なステロイド外用薬を大量にしかも長期に使用する場合(例:広範囲な皮疹,アトピー性皮膚炎,乾癬などへの適応など)には全身作用が生じやすいと思われ,また,皮膚のバリア機能に応じて経皮吸収率が変化する薬剤であると考えられる.したがって,strongest, very strong 及びstrong の3群のステロイド外用薬は,暴露量が問題となる薬物と考えられる.1)局所皮膚適用製剤の後発医薬品のための生物学的同等性試験ガイドラインQ&A

外用薬においても、皮膚バリアの状態によっては経皮吸収率が増大し、力価・使用量・使用期間によっては全身的副作用が生じるリスクを認識しておくべきでしょう。

 

副腎機能の抑制について

ステロイド外用薬では、副腎機能の抑制は通常生じないと主張されることがあります。

ロコイド軟膏0.1%の添付文書(鳥居薬品株式会社, 2016年10月改訂第5版)における記述を確認しましょう。

4)下垂体・副腎皮質系機能
大量又は長期にわたる広範囲の使用、密封法(ODT)により、下垂体・副腎皮質系機能の抑制をきたすことがあるので注意すること。

添付文書には、副腎機能の抑制の可能性が記述されています。ただ、この記述ではあまりに簡潔にすぎます。

 

そこで、同じ薬でも、アメリカの Locoid (hydrocortisone butyrate) Ointment, 0.1% (ロコイド軟膏0.1%)の添付文書をみてみましょう。

PRECAUTIONS (使用上の注意) のGeneral (一般) および Pediatric Use (小児への投与) を抜粋翻訳引用します。

一般

ステロイド外用薬の全身的吸収は、可逆性の視床下部-下垂体-副腎系 (HPA) 系の抑制、クッシング症候群の兆候、高血糖、糖尿を患者に引き起こしている。全身的吸収増加の状況は、より強力なステロイドの塗布、広い体表面積への使用、長期使用、密封療法などである。

ゆえに、大量に強力なステロイド外用薬を処方され、広い面積に塗布したか、密封療法を行った患者は、ACTH刺激試験により視床下部-下垂体-副腎系抑制の兆候を調べるために定期的に評価を受けるべきである。

もし視床下部-下垂体-副腎系の抑制が示されたなら、薬物の中止、塗布頻度の減少、より弱いステロイドへの代替などが試みられるべきである。

視床下部-下垂体-副腎系機能は、一般的には、薬物の中止により速やかに完全に回復する。

まれに、ステロイド離脱兆候および症状が生じることがあり、全身性ステロイドの補充が必要となる。

子供は、比例的に、より大量のステロイド外用薬を吸収するかもしれず、全身毒性の影響を受けやすいかもしれない。

小児への投与

小児患者は、成人患者よりも体重に対する皮膚表面積の比が大きいために、ステロイド外用薬誘発性の視床下部-下垂体-副腎系抑制およびクッシング症候群に対してより強い感受性を示す可能性がある。

視床下部-下垂体-副腎 (HPA) 系の抑制、クッシング症候群、線形成長遅延、体重増加遅延、頭蓋内圧亢進がステロイド外用薬を処方された小児において報告されている。

小児における副腎抑制の兆候は、血中コルチゾール低値やACTH刺激への無反応などである。頭蓋内圧亢進の兆候は、泉門膨隆、頭痛、両側性乳頭浮腫などである。

小児へのステロイド外用薬の処方は、効果的な治療内容に反しない最小量に限られるべきである。長期のステロイド治療は小児の成長および発達を妨げる可能性がある。

このように、使用上の注意において、副腎機能の抑制が生じ得ること、ステロイド離脱症状が生じ得ること、小児ではより危険性が高まることなどが丁寧に記載されています。

 

さて、当判決から2年後、2005年3月24日、アメリカ食品医薬品局(FDA)の皮膚科・眼科諮問委員会と非処方箋薬諮問委員会の合同会議が開かれました。

委員会では、ステロイド外用薬を処方薬から市販薬へ変更することを評価するための必要十分な安全データベースについて議論されました。

その委員会で、ステロイド外用薬による視床下部-下垂体-副腎 (HPA) 系(以下、副腎系と略す)抑制の発生率の高さが指摘されたのです。

以下、Denise Cook, M.D.によるプレゼンテーション「Rx Topical Corticosteroids: HPA Axis Suppression and Cutaneous Effects」から一部抜粋翻訳します。

それでは、市販後報告の要約です。有害事象の多くに共通するのは次の状況です。ステロイド外用薬の長期使用、非常に強力なステロイド外用薬の使用、複数のステロイド外用薬の使用、吸入や内服など異なる剤型の同時投与、過剰量の使用やおそらくステロイド外用薬の不適切な使用です。

副腎系抑制のデータ要約では、副腎系の抑制はステロイド外用薬の使用により発生します。

副腎抑制は非常に強力なクラスのステロイド外用薬に限られません。

広い体表面積の病変および薬の使用量が、副腎系抑制のリスクファクターであるとみられます。

基剤のタイプが、作用する化学物質部分の吸収量に寄与しているかもしれません。

抑制は、ほとんどの例で薬剤の使用中止により可逆的であるようです。

ステロイド外用薬の長期使用は、特に高力価では、深刻な罹患をもたらし、死亡すらあり得ます。

それでは、皮膚の安全性にうつりましょう。我々は最初に既知の皮膚有害事象についてお話します。それから、可能であれば、皮膚悪性腫瘍がステロイド外用薬と関連するかという疑問について手短にここで述べたいと思います。

さて、ステロイド外用薬の使用と関連する有害事象は、皮膚萎縮、毛細血管拡張、皮膚線条、顔面紅斑、ステロイド酒さ、色素脱失、感染症、創傷治癒遅延などです。

百聞は一見に如かずと申しますから、これらの有害事象のプレゼンテーションは写真で行います。

これは皮膚萎縮の写真です。良い写真ではありませんが、皮膚が少し薄くなり、皮膚表面がいくらか光っていることがわかります。

これは毛細血管拡張です。微細な血管がここからあごへ通っているのが見えます。

これは皮膚線条の写真です。おそらく長期にわたるものです。

皮膚線条のもうひとつの写真です。自然に急性発症したのかもしれません。

これは顔面紅斑の写真です。

もうひとつの顔面紅斑です。

これはステロイド酒さの写真です。ステロイド外用薬を塗布したところに炎症が起きています。もちろん、ステロイド外用薬はやめて、基礎疾患の酒さは適切に治療されなければなりません。

これはステロイド外用薬の使用による色素脱失の写真です。

他にも有害事象は起こり得ます。ステロイド外用薬はある種の感染症を生じさせます。例えば、白癬感染症が悪化するかもしれません。ステロイド外用薬は傷口の開いた傷や手術創傷の治癒を遅らせるでしょう。眼窩周囲におけるステロイド外用薬の使用は眼圧の上昇を引き起こすかもしれません。

さて、皮膚悪性腫瘍に関して、我々は先に述べた同じシステム、AERS(訳注:Adverse Event Reporting System; 大規模有害事象症例報告データベース)の中から市販後報告を検討します。1969年から2005年2月5日現在までに2つの報告があります。

ひとつは、肥満細胞腫歴をもつ7か月の男児で、クロベタゾールの中止から数か月後に癌が報告されました。その患者は実際は短期間フルチカゾンを使用していました。それからクロベタゾールプロピオン酸を1週間使用、1週間中止、それからもう1週間再度開始しましたが、皮膚萎縮が生じたので治療は中止されました。その数か月後、彼が皮膚癌を発症したという報告がありました。

ふたつめの例は、年齢不詳の女性で、乾癬のためにベタメタゾンクリームを使用しており、”乾癬から癌になった”と報告されました。

そして、このことから我々は、AERSのデータが、ステロイド外用薬の使用に伴う悪性腫瘍の形成について説得力ある安全性シグナルを示していないということができます。

また、皮膚有害事象に関して、ステロイド誘発性有害事象が遅かれ早かれ生じ得るといえます。それは薬物の強度および使用期間によります。塗布部位にもよります。患部の密封はリスクを高めるかもしれません。

ステロイド誘発性有害事象は、ゆっくりと消失するかもしれないし、全く消失しないかもしれません。

結論として、副腎系の抑制はステロイド外用薬の短期使用において生じ得ます。中等力価のステロイド外用薬ですら生じ得ます。早ければ2週間の継続治療により生じ得ます。

抑制は通常可逆的に生じます。副腎系抑制の発症に関して、体表面積、薬剤使用量、薬剤力価の相互関係は複雑です。

ステロイド外用薬の長期使用や誤使用は、とくに高力価では、深刻な合併症や死を招く可能性があります。

皮膚有害事象は、使用期間およびステロイド外用薬力価の双方に関連し、短期使用でも長期使用でも生じる可能性があります。

これら皮膚有害事象の消失は、いくつかは可能ですが、すべてではありません。

また、ステロイド外用薬使用に伴う皮膚悪性腫瘍に関するデータに、確固たるエビデンスはありません。

ご清聴ありがとうございました。

日本では、ステロイド外用薬による副腎系抑制は、「通常生じない」という一言で片付けられてしまいます。

しかし、ステロイド外用薬による副腎系抑制について、このような議論があることを認識しておくべきでしょう。

リスクは隠すべきものではなく、正しく認識して予防のための措置を講じるべきものだと思います。

 

内服ではなく外用なら安全なのか

最後に、参考として、同会議の公聴会における Sandra Read, MD による公述を抜粋します。

Read 氏は、ステロイドについて、外用薬にもリスクがあることを指摘し、患者がステロイド外用薬を市販で容易に入手することの危険性を指摘しています。

私は30年間医療活動に携わり、20年以上コロンビア特別区で皮膚科開業医を勤めてきました。また、ジョージタウン大学の臨床にて教鞭を執り、10年以上小児皮膚科学の講義を行ってきました。

私は研修生の時からステロイド外用薬を処方してきました。それは私の治療道具としてなくてはならないものです。長年、私はその有益性に感謝するだけでなく、これらの薬の乱用の可能性に対する注意、とても十分な注意を払ってきました。私はこの委員会に要求します。ステロイドの投与経路に捉われないでください。これらは深刻な内的および外的な副作用を引き起こす強力な外部物質なのです。

ステロイド外用薬による全年齢層の患者の治療は、私たちの皮膚科診療の中心です。それらは強力な薬ですが、適切に使用すれば、苦しむ患者の症状を軽減することができ、穏やかで正常な生活へと導くことができます。

しかし、不適切に使用されれば、これらの薬は深刻な被害をもたらします。そのため、アメリカ皮膚科学会は、これらの薬を市販により入手できるようにする提案に対して反対しています。

私は私の患者100人のカルテについて無作為調査を行いました。患者100人のうち、私がステロイドクリームを処方したのは36人です。処方薬のうち、16%が超強力、36%が中から強、50%が弱の強さでした。ある患者は異なる強さの2つ以上の処方薬を受け取りました。先ほど述べた方が指摘したように、このような処方は患者の方が使い方についてとても混乱することがあります。それでも、私の臨床データでは、これらの薬の有用性は強固なものとなっています。私はステロイドクリームなしではやっていけないし、私の患者もまたそうでしょう。

しかしながら、私はこれらの薬の乱用がもたらした結果を何度も見てきました。皮膚菲薄化、変色、毛細血管拡張、皮膚線条、永久的なストレッチマークなどの皮膚有害事象です。

これらの副作用は、永久的で、醜い跡が残り、一生消えないかもしれません。小児患者、私たちの最も幼い患者はとりわけこれらの副作用の影響を受けやすいのです。本当です。私はステロイド外用薬で治療されたある一人の小児患者の写真をよく見せることがあります。皮膚は薄くなり、色素は脱失し、毛細血管は拡張していました。ジョージタウンの医学生は、この写真のことを決して忘れることはないだろうと私に話してくれます。

私は、患者たちがこれらの薬を手に入れ、ステロイドに反応しない皮膚病、白癬や疥癬、そして皮膚がんにさえも、誤って使用しているのを見てきました。いま私たちはみな、このことが診断を遅らせ、分かりにくくし、疾患を悪化させることを知っています。皮膚白癬や真菌については言うまでもありません。

この部屋にいる皮膚科医の方々も見たことがあると思いますが、私は、陰部のひだにステロイドを不適切に使用している例を見てきました。この部位は、吸収が急速に高まり、皮膚の副作用を引き起こします。

私たちは、もちろん、密封療法で塗布されたときのステロイド外用薬の増大された強さについて無視することはできません。密封療法では、マイルドクリームはストロングクリームとなり、ストロングクリームはさらに強さを増します。

こうしたことは、もちろん、この薬を自己判断で使用したり、管理されないままに使用した患者において、偶然に起こるものです。さて、皮膚有害事象は加速拡大するだけでなく、全身的吸収のリスクがあり、すべてのこれらの合併症は委員会のメンバーにはよく知られています。

お話したように、ステロイド外用薬と、副腎系抑制や小児の成長抑制および皮膚副作用との間の直接的な関連を示す研究についての医学文献は有り余るほどです。

それは不益な治療や副作用を示した患者への注意深い観察があってこそです。医師はこうした危険な臨床症状や副作用を防ぎ観察することができます。

みなさんにお願いします。もしみなさんがこの問題を医師から取り除いてしまえば、みなさんは、私たちの医師としての主要な職務である、とても重要な患者のためのセーフガードと保護を、事実上取り除いてしまうことになるでしょう。

これらの薬剤を処方薬から市販薬へ変えることで、FDAは事実上医療行為を患者へ譲ることになるでしょう。

患者に十分に知らせることと同様に、私はそのような深刻な副作用を生じうる薬を使い、自己診断や自己治療をすべきではないと信じています。

市販ステロイド薬により治療される小児患者の危険性について、この委員会で慎重に考慮されるべきです。親たちは、湿疹や他の皮膚疾患や症状に悩まされる子どもの救済を探し求めるので、ステロイド外用薬を誤って使用している彼らの耳には届かず、あまりに頻繁に、あまりに大量に、あまりに広い部分に、あまりに長きにわたり塗布し続けるのです。

小児患者には全身的吸収の高いリスクがあり、体重に対する体表面積の比率が高いために成長抑制をもたらす可能性があります。

FDAは、ステロイド外用薬を使用したときの副腎系抑制のリスクを患者が理解していないことについて、自ら懸念を表明しました。小児患者において、親たちが告知しなかったときに副腎系抑制の診断を医師が見過ごすリスクは、ステロイド外用薬を使用するときの現実的なリスクなのです。

日本では、「危険性が高いのはステロイド内服薬であって、ステロイド外用薬は安全である」という主張を、多くの人が無批判に受け入れています。

しかし、副腎系抑制を含め、ステロイド外用薬には大きなリスクがあるという議論が存在することを、知っておくべきでしょう。

 

(判決文中の人物名および団体名は一部伏せています。)

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References   [ + ]

1. 局所皮膚適用製剤の後発医薬品のための生物学的同等性試験ガイドラインQ&A

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