アトピー性皮膚炎に関わる訴訟(2)

事件番号:東京地方裁判所判決/平成14年(ワ)第5252号

判決日付:平成16年6月16日

判示事項:アトピー性皮膚炎の患者が非ステロイド治療を受けその症状が悪化した場合に、その原因はステロイド外用薬の使用を中止したことによるリバウンドではなく、当該患者に実施された治療行為がその皮膚症状を著しく悪化させたものであるとして担当医師の過失が肯定された事例

裁判長裁判官:片山良広 裁判官:森脇江津子 小川卓逸

主文

一 被告らは、連帯して、原告Aに対し385万円、原告Bに対し144万2653円、原告Cに対し110万円と、これらに対する平成14年6月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

二 原告らのそのほかの請求を棄却する。

三 訴訟費用は、5分の3を被告らの負担とし、そのほかを原告らの負担とする。

四 この判決は、第1項について、仮に執行することができる。

 

(以下、事実及び理由の第二の一及び二を抜粋)。

第二 事案の概要

原告Aは、被告D会が開設する皮膚科医院で、院長である被告Eによりアトピー性皮膚炎の治療を受けたが、その治療中に症状が著しく悪化したため、大学病院に入院してその後の治療を受けた。

本件は、原告Aとその両親が、被告Eが実施した不適切な治療行為によってアトピー性皮膚炎の症状が悪化したと主張して、被告らに対し、医療契約上の債務不履行又は不法行為に基づき、慰謝料や医療費などの損害賠償を求めた事案である。

一 前提となる事実(証拠を記載したもの以外は争いがない)

(1)当事者

ア 被告医療法人社団D会は、肩書地において、診療所である「E皮膚科」を開設している(以下「被告医院」という)。

被告Eは、被告D会の理事長である医師であり、院長として被告医院で診療行為を行っている。

イ 原告A(1995年6月29日生まれ)は、原告Bと原告Cの長女である。

原告Bと原告Cは、原告Aに湿疹が生じていたので、2000年4月25日から被告医院に通院して、被告Eによる診療を受けさせた。

(2)被告医院受診前の診療経過

ア 原告Aは、1997年9月、足首や膝に湿疹ができたため、原告Cが以前から受診していた港区六本木所在の「F医院」でf医師の診察を受け、乾燥による湿疹と診断されて、1997年11月まで月2、3回ほど通院した。その後は、1998年4月13日に受診して軽症の乳児湿疹との診断を受け、1999年1月、2月、4月、8月に1回ずつ通院した。

イ 原告Aは、転居によりF医院への通院が不便になったため、1999年3月19日、f医師から紹介を受けて、練馬区G町所在の「H皮フ科」でh医師の診察を受け、胸部と下肢関節部の軽度の湿疹と診断された。その後は、1999年8月、11月、2000年2月に1回ずつ通院したが、1999年ころからは頭にフケが出るようになった。

ウ 原告Cは、H皮フ科がいつも混んでいることや原告Aの皮膚症状が軽微であったことから、通院しなくても薬を処方してくれるとの評判を聞いて、原告Aに医療法人R会の「S診療所」(T病院の分院)を受診させることとし、原告Aは、1999年9月15日、S診療所でN医師の診察を受けた。当時、原告Aは足首と膝に赤く湿疹ができ、胸部や腕の皮膚はかさかさしていたが、顔には特段の皮膚症状はなかった。N医師は、全身アトピー性皮膚炎と診断し、原告Cに「大したことはないですが、一応薬を出しましょう」と告げて4種類の軟膏を処方した。原告Aは、以後、通院はせずに、1999年12月と2000年2月に薬の送付を受けた。

エ 原告AがF医院で当初に処方された外用薬や、H皮フ科とS診療所で処方された外用薬には、いずれも作用の強さが中程度(ランクⅢ)のステロイドが含まれていた。

(3)被告医院における診療

ア 原告Cは、S診療所のN医師から送付された薬が切れたことから、近所にあって通院に便利で、人気があるという評判の被告医院を受診してみようと考え、2000年4月25日、原告Aに被告医院を受診させた。原告Aは、被告Eの診察を受けてアトピー性皮膚炎と診断され、以後、2000年7月14日までの間、1週間に2、3回程度の頻度で被告医院に通院した。

イ 原告Aは、被告医院において、被告Eから、星状神経節近傍へのレーザー照射を受け、イソジン液と超酸性水による消毒や、ステロイドを含まない外用薬(アクアチムクリーム、ニゾラールクリーム、アズノール、プロトピック軟膏など)と内服薬の処方を受けた。被告Eは、アトピー性皮膚炎の治療にステロイド外用薬を使用しないという「脱ステロイド療法」を実践している医師であった。

ウ 被告医院に通院する間に、原告Aの皮膚症状は徐々に悪化し、受診当初は湿疹がなかった顔などの部位を含めて全身に湿疹が広がり、痒みで掻きむしることもあって、皮がむけて赤く腫れ上がり、頭髪は3分の1から4分の1程度になるまで抜け落ち、発熱を繰り返すなどの状態になった。

(4)被告医院における診療後の診療経過

ア 原告Aは、著しく悪化したアトピー性皮膚炎とこれによる全身状態の衰弱を治療するため、2000年7月19日、金沢大学医学部附属病院を受診し、同日、直ちに入院した。金沢大学病院で竹原和彦医師らによる治療を受けた結果、全身状態、皮膚症状とも大きく改善し、2000年8月9日に退院した。

イ 原告Aは、退院後は、竹原医師の紹介により、2000年10月3日から東京逓信病院へ通院するようになった。頭髪を含めた皮膚の状態は、1年後には被告医院受診前の状態にまでほぼ回復し、現在は3か月に1回程度の通院をしている。

二 争点

(1)被告Eの治療行為上の過失

ア ステロイド外用薬を使用しない治療法の適切性

イ 被告Eの個々の治療行為の適切性

ウ 被告Eの治療行為と症状悪化との因果関係

(2)説明義務違反

(3)原告らに生じた損害

(事実及び理由の第二の一及び二の抜粋は以上)。

 

(以下、事実及び理由の第三の一及び二を抜粋)。

第三 争点に対する判断

一 アトピー性皮膚炎に関する医学的知見

≪証拠略≫によれば、次のような医学的知見が認められる。

(1)アトピー性皮膚炎の病態

ア アトピー性皮膚炎は、増悪と寛解を繰り返す痒みのある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因(気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などの家族歴や既往歴、又はIgE抗体を産生しやすい素因)を持つ。

アトピー素因を有する者がすべてアトピー性皮膚炎を発症するわけではなく、アトピー性皮膚炎の発症にはさらに環境的要因が加わることが必要である。この環境的要因としては、皮膚生理機能異常と免疫機能異常の関与が認められ、(1)表皮角層内脂質の顕著な減少により皮膚のバリア機能が著しく低下し、そのため種々の外来的刺激(口の周りをなめる癖、髪の毛による刺激など)に容易に反応して湿疹が惹起され、掻破による免疫反応という機序(免疫反応の易誘導性)が想定されている。

イ アトピー性皮膚炎は一般に慢性に経過するが、適切な治療により症状がコントロールされた状態が維持されると、自然寛解することがある。

また、一定の年齢に達すると自然寛解する例も多く、幼小児例の大多数が10歳ころに自然寛解する。

(2)アトピー性皮膚炎に対する治療

ア アトピー性皮膚炎の疾患そのものを完治させる薬物療法はなく、対症療法を中心とした適切な治療により症状をコントロールすることに治療の主眼が置かれる。

すなわち、治療の目的は、患者を、(1)症状がないか、あっても軽微で日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態、あるいは、(2)軽微ないし軽度の症状は持続するが、急性に悪化することはまれで、悪化しても遷延することはない状態にすることにある。

イ アトピー性皮膚炎に対する治療は対症療法が中心であり、原則は痒み止めと湿疹の治療である。

痒みに対する掻破行為が症状の悪化をきたすため、止痒薬(抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬)を内服し、各種の皮膚刺激物質を避けさせて、皮膚保護外用薬を使用する。

湿疹病変の治療には、ステロイド外用薬を塗布するのが一般的である(日本皮膚科学会編「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」)。ステロイド外用薬は、症状の程度に応じた強さのものを比較的短期間、集中的に使用して湿疹病変の改善を図り、症状の軽快に応じて弱いもの、あるいは保湿薬に切り替える。

(3)ステロイドによるリバウンド現象

ア ステロイドは、人体の副腎皮質や性腺から分泌されるホルモンの総称であり、優れた抗炎症作用を有することから、薬として使用されている。ステロイド薬は作用の強弱により、最も作用の強いランクⅠから作用の弱いランクⅤまで五段階に区分されている。

ステロイドを内服した場合、大量の副腎皮質ホルモンが血液中に吸収されるためにホルモンを分泌する副腎の働きが著しく抑制され、結果として、副腎不全、糖尿病、ムーンフェイスなどの全身的副作用を生じることがある。

大量のステロイドの内服を続けた後でステロイドの内服を急に中止すると、副腎の働きが抑制されているため、ステロイドが体内にまったく存在しない状態になる。その結果、それまでステロイドによってコントロールされていた炎症がコントロールされなくなり、ステロイドを内服する以前の状態よりも症状が悪化する。これを、リバウンド現象という。

イ ステロイドを外用する場合には、血液中に吸収されるステロイドの量は微量であるため、内服した場合のような全身的副作用は通常生じない。ステロイドを外用した場合に、副腎の分泌するステロイド産生量はほとんど変化しないことが確認されている。

ステロイド外用薬による副作用としては、局所的副作用として、ステロイド座瘡、ステロイド潮紅、皮膚萎縮、多毛、細菌・真菌・ウイルス皮膚感染症などが時に生じるが、中止あるいは適切な処置により回復する。ステロイド抵抗性(連用による効果の減弱)も、通常の使用では経験されない。ステロイド外用後に色素沈着が生じることがあるが、皮膚炎の鎮静後の色素沈着であり、ステロイドによるものではない。

ステロイドによるリバウンド現象は、このようにステロイドを内服して大量摂取した場合に問題とされるものであって、ステロイドを外用薬として使用した場合には、リバウンドが生じることはほとんど考えられない。

 

二 原告Aに対する診療と皮膚症状の経過

前提となる事実と≪証拠略≫によれば、次の事実が認められる。

(1)被告医院の受診以前

原告Aの皮膚症状は、被告医院を受診する以前には、月に1、2回、足首や膝に赤みや発疹が出たときに、少量のステロイドを含んだ外用薬を塗布するという程度でコントロールされており、全身に湿疹や腫れなどのアトピー性皮膚炎の症状が出るようなことはなかった。

(2)被告医院における診療(2000年4月25日~7月14日)

ア 4月25日

被告医院の初診時に、原告Cは、問診票の「将来どうなりたいか」との欄に「できれば将来的には薬をつけないで済むようになりたい」と記載して提出し、被告Eに対しては「横浜の病院に行っていました」、「ステロイド外用薬は使用していません」と説明した。

原告Cは、ステロイド薬に対する抵抗感を持っていたわけではなく、ステロイド、非ステロイドといった区別にも関心はなかったので、S診療所で処方された外用薬にステロイドが含まれていることを認識していなかった。また、被告Eが実践しているという「脱ステロイド療法」を原告Aに受けさせることを目的として、被告医院を受診したのでもなかった。

被告Eは、以前の受診内容についてそれ以上は聞くことなく、「それじゃお母さん、がんばって7月までに治しましょう。何も薬を使わないで大丈夫になりますよ」と告げて、原告Aを診察し、ストレスを解消させるためのレーザー治療を行った。そして、アクアチムクリームやニゾラールクリームを配合した軟膏やローションなどとともに、イソジン液(濃度10%)50ミリリットルを処方して、原告Cに対し、1日3回、首や腕、肘、足首、脛、膝などの乾燥部位にイソジン液を塗って消毒し、その後に超酸性水で拭きとるようにと指示し、また「カサカサがいいんですよ」と告げて皮膚を乾燥させることが重要であると説明して、それまで保湿剤として使用してきたザーネ軟膏の使用はやめるようにと指示した。

被告Eは、原告Aの皮膚症状について、アトピー性皮膚炎と診断したが、診療録の傷病名欄には、当日は「脂漏性皮膚炎」、「毛包炎」と記載していた(次の受診日である5月1日に「アトピー性皮膚炎」と記載)。

イ その後

原告Aは、5月1日に2回目の受診をし、その後は1週間に2回程度の頻度で被告医院に通院して、ストレス解消のためのレーザー治療と外用薬や内服薬の処方を受けた。

原告Aは、イソジン液による消毒については、塗布開始後1週間目くらいから、痛がって塗布を拒否し、逃げ回るようになった。しかし、原告Cは、被告Eの指示に従って、1日3回のイソジン液の塗布を続けた。

ウ 5月12日

原告Aは、5月12日に被告医院を受診したころには、皮膚がむけて全身が真っ赤になっていた。

不安になった原告Cが、前よりひどくなっていないかと尋ねたのに対し、被告Eは、「前にどんな薬を使っていましたか」と尋ね、S診療所のN医師の診療を受けていたことを知ると、「T症候群っていってね、有名なところなんですよ」、「お母さん、騙されましたね。ステロイドを使っていないと表には言っているけど、あそこの薬には本当はものすごく強いステロイドが入っているんですよ。これを使い続けると、どんどん悪くなって、やめるとこういう風になっちゃう。それをリバウンドっていうんですよ。お母さんがそんなところに連れて行くから、こんな風になっちゃって、かわいそうに」と告げ、原告Aの皮膚症状はステロイドのリバウンドのためであるとの説明をした。

原告Cが自分自身のステロイド外用薬の使用経験ではそのようなことはなかったと説明すると、被告Eは、「Tの薬は、もっとずっと強いんですよ」、「弱いと言いながら、実際は極めて強い薬が入っている」と告げた。原告Cがリバウンドがあるなら治癒は遅くなるだろうと思い、いつごろ治るのかと尋ねると、被告Eは、「夏までには、プールの時期までには治りますよ」と告げた。そして、被告Eは、「皮がむけるのはいいことです。皮がむけてから治るんでるよ」と説明し、皮膚のむけてきたところに塗るようにと指示して、モクタールとアズノールの混和軟膏を処方した。

被告Eは、同日あるいはその後の診療において、原告Cに対し、以前にS診療所やそのほかの医療機関で原告Aがどのような薬の処方を受けていたかについて、薬剤名や処方量、使用頻度、使用期間、使用部位などを具体的に質問したことはなく、また、ステロイドのリバウンドとして今後どのような症状が生じうるかについて説明したこともなかった。

エ その後

原告Cは、S診療所で処方された薬がそれほど恐ろしいものだとは知らないで子供に塗ってしまったことを激しく後悔し、リバウンドを早く治さなくてはいけないとの思いのもとに、原告Aが痛がって泣くにもかかわらず、被告Eの指示どおり、被告医院で処方された薬を塗布し、イソジン液による消毒も続けた。

しかし、原告Aの皮膚症状は改善することなく、全身の皮膚が赤みと熱を帯び、皮がむけて赤く腫れ、次いで黒ずみ、乾燥して白く浮き出てはがれ、その下からまた赤い皮膚が見えるという状態を繰り返した。

原告Aは、常に寒気を感じて長袖の衣服を着用する状態になり、5月19日の幼稚園の遠足の際は、寒気のために教師におぶわれて帰ってきた。翌日からは発熱が続いたため、そのまま約4週間にわたって幼稚園を休み、被告医院に通院する以外は自宅で寝ている生活が続いた。

オ 5月20日

被告Eは、5月20日、原告Aの発熱に対して抗生物質の内服薬を処方したが、原告Cに対し、発熱の原因や皮膚症状との関係の有無については特に説明はしなかった。

また、原告Cが、原告Aがイソジン液を痛がることを改めて説明すると、被告Eは、「じゃあ、適当に。1日1回でもいいですよ。そんなに重要な治療でもないから」と告げたため、原告Cは、以後、原告Aに対するイソジン液の塗布を中止した。

カ 5月22日

原告Aは、処方された抗生物質の内服薬を飲んでも熱が下がらず、5月22日には、40度の発熱があった。

原告Cは、驚いて、練馬区G町所在の掛かり付けの小児科医である「I内科クリニック」で、i医師の診察を受けさせた。i医師からは、内科的所見には問題がなく、皮膚症状が原因で、アトピー性皮膚炎に感染が加わったものと考えられるので、現在受診中の皮膚科を受診するようにとの指示を受け、被告医院とは別の抗生物質の内服薬を処方された。

原告Cがその足で被告医院へ行き、発熱の理由を尋ねたところ、被告Eは、「ステロイドのリバウンドです。相当強いステロイドを使っていたから、それが体から完全に抜けるまでは、ずっとこういう風なリバウンドが続くんですよ」と答え、原告Aの発熱はステロイドのリバウンドのためであると説明した。

その後も原告Aの熱は完全には下がらず、微熱、発熱を繰り返し、5月25日には再度40度の発熱があった。

キ 5月26日

被告Eは、5月26日の診療で、原告Aに40度の発熱があったことを聞くと、原告Cに対し「Aちゃんの身体がステロイドを求めているんです。仕方がないので、応急処置としてステロイドを使いましょう。そこで今後の脱ステロイド治療を行うための態勢を整えましょう」と告げて、ステロイド外用薬であるアンテベート軟膏(ランクⅡ)を処方した。

原告Cが、新たにステロイドを投与するのでは、これまでの治療が無意味になるのではないかと質問したところ、被告Eは、「少しくらい大丈夫ですよ」と答えた。

アンテベート軟膏を塗布したところ、原告Aの皮膚症状は改善し、それまで黒ずんでいた皮膚が白くなった。

ク 5月29日

被告Eは、5月29日、原告Cに対し「新しくできたいい薬で、ステロイドのようなリバウンドがない」と説明して、保険診療外でプロトピック軟膏を処方し、薬局で購入して顔以外の全身に塗るよう指示した。

原告Cは、処方箋を持参して薬局でプロトピック軟膏を購入し、被告Eの指示に従って、原告Aの顔以外の全身に塗布した。

ケ その後

原告Aは、プロトピック軟膏の塗布開始後4日目くらいから、皮膚にしみるため悲鳴を上げ、泣いて塗布を嫌がったが、原告Cは、被告Eの指示どおり、顔以外の全身に塗布を続けた。

しかし、原告Aの皮膚症状は良くなるどころかかえって悪化し、体の皮膚全体が固く黒ずんでかさぶた状になった。痒みのため体中を掻きむしって出血し、滲出液で悪臭がするようになり、眉毛も頭髪も抜け、血便や乏尿といった症状が出るようになったが、被告Eは、プロトピック軟膏の処方を続け、原告Cに対しては「お母さん、この状態がいいんです」と説明して、塗布を続けるよう指示した。

このころには、原告Aの症状を見た原告Bがその治療方法に疑問を持ち、被告Eの説明を信じた原稿Cがこれに反発して、二人の間に争いが起きることもあった。

原告Aは、痒みや痛みのために、夜も眠れず、体重が減り、食欲もなくなって「死にたい」、「ママやパパが眠れないのもAのせい」、「Aがいなければ眠れるよ」と言うようになり、6月13日ころには、午前1時すぎに「車にひかれて死ぬから」、「大通りに行く。あっちへ行けば車が来るから、あっちで死ぬ」と言って小雨の降る中を外へ出て行き、自殺をしようとするような行動を見せた。原告Cが泣きながら駆けつけ、原告Aを抱き上げて、これを止めた。

しかし、被告Eは、原告Cがその話をしたのに対し、「そんなことは一時のこと」と言って取り合おうとせず、原告Aの状態を見て「皮膚がボロボロになるのがいいんですよ。ステロイドの毒が出ているんです。お母さんがステロイドが入っている薬を使うからこうなってしまったんですよ」と説明したため、原告Cは自分を責め、1週間に3回程度の頻度で被告医院への通院を続行した。

コ 7月4日

原告Aは、微熱が続いていた。原告Cが他の医師から原告Aを入院させるように言われたと告げたのに対し、被告Eは、「入院することはないです。もう一度、ステロイドを使ってリバウンドに対して闘っていける態勢を整えましょう」と言って、再度、アンテベート軟膏を処方した。

アンテベート軟膏の塗布により、黒ずんでいた皮膚が白くなって、原告Aの皮膚症状に改善が見られた。

サ 7月7日

原告Cが、今朝プロトピック軟膏を塗布したとたんに原告Aが頭を掻きむしって悲鳴を上げたので、プロトピック軟膏はもう使いたくないと告げたのに対し、被告Eは、「お母さん、いつも娘さんのわがままに言いなりになっていては、良くなるものも良くなりませんよ」、「Aちゃん、あなたも少しくらいしみても我慢しなくちゃ。もう5歳なんだから」と言った。

原告Cは、原告Aがどれだけ我慢を重ねてきたかが理解されていないと感じ、被告Eの言葉に落胆した。

(3)金沢大学病院での入院診療(2000年7月19日~8月9日)

ア 入院時

原告Cが、他の医師の勧めもあって、7月19日、原告Aに金沢大学病院の竹原和彦医師の診察を受けさせたところ、アトピー性皮膚炎の症状が重症化して全身状態も衰弱が見られ、皮膚からの感染症や低栄養状態を管理するために入院して治療をする必要があると診断されたため、同日、原告Aは直ちに入院した。

入院時、原告Aは、全身の皮膚が強い浸潤と中程度の苔癬化を伴う紅皮症で真っ赤に腫れ上がり、健常な皮膚はまったく残されていない状態であった。手首、膝窩、足首などのいわゆる間擦部には、皮膚が肥厚して象の皮膚のように盛り上がった極めて高度な苔癬化が見られ、頭部は高度の皮疹のため著明な脱毛が認められ、頭髪は正常時の3分の1から4分の1程度を残すのみであった。

また、全身に著明な鱗屑が認められ、多数の掻破痕があって、掻破痕のかなりの部分がびらんを混在し、滲出液の悪臭がしていたが、なお一瞬も掻破行動を止めることができない状態であった。

両頸部、両腋窩に圧痛を伴うリンパ節腫脹が見られたが、ステロイド外用薬の副作用としての萎縮性皮膚は見られなかった。

イ 治療

原告Aは、8月9日までの入院期間中、全身状態の管理などのほか、ステロイド外用薬を使用し、症状が改善するごとにステロイドの作用の強いものから弱いものへ順次切り替えるという治療を受けた。

その結果、皮膚の状態は劇的に改善し、退院時には足や手などの一部を除いてアトピー性皮膚炎の症状が出ていない状態にまで回復した。

(4)東京逓信病院における診療(2000年10月3日~)

ア 初診時

原告Aの皮膚症状は、10月3日の初診時には、肘と膝の伸側に軽度の苔癬化した皮疹を認める程度にまで軽快していた。

イ 1年後

さらに改善し、ステロイド外用薬などを部分的に時々塗る程度で、アトピー性皮膚炎のことはあまり気にならない程度にまで回復し、頭髪もほぼ元の状態に戻った。

ウ 現在

顔はまったく正常な皮膚状態になり、首と手にかさかさした感じがある程度で、赤みなどの症状が出たときに限って、処方されたステロイド外用薬などを使用している。

東京逓信病院への通院回数も3か月に1回程度となり、調子の良いときには薬の処方を受けないこともある。

(事実及び理由の第三の一及び二の抜粋は以上)。

 

(判決後、被告は控訴、第二審で和解成立。平成16年(ネ)第3941号)

(判決文中の人物名および団体名は一部伏せています。また、読みやすさを考慮して、和暦を西暦に、漢数字をアラビア数字に一部換えています。)

2件のコメント

  1. こんにちは、いつも拝読させていただいております。
    平成14年の判決文は初めて見ました。だいたいの話は聞いてはいたのですが。
    ちなみにこれってどうやって見つけたのですか?後学のために教えていただけないでしょうか?
    さて、拙ブログに、私なりの感想を記しました。ご参考になさってください。

    1. コメントありがとうございます。光栄です。
      平成14年の判決文は、国立国会図書館東京本館にて判例データベースを検索したところヒットしました。

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