アトピーの症状はさまざま

「実は私、アトピーなんですよ。」

この言葉を、これまでに数人から聞いたことがあります。

すべての人に対して、私は、心の中で、「ぜんぜん大したことないけどなぁ」と思ってしまいました。

「ここが悪くなるんですけど」といって患部を見せてくれる人もありましたが、やはりぜんぜん大したことないのです。

そうした人たちは、アトピーを「肌荒れ」のように捉えており、季節によって調子が悪くなる時だけステロイドや保湿剤などを使用しているようです。

たまにステロイドを使うといえば、こんな人もいました。

張りと艶があり、傷ひとつない白い肌の人が、「ステロイドを使っているんだよ」と言っていたので、本当に大変に驚いたのです。調子が悪くなるとロコイドを塗っているということでした。

反対に、「この人、大変そうだなぁ」と街で思うこともあります。赤ら顔を通り越して、黒っぽく紫がかったゴワゴワの顔をした人をみかけたときです。

かゆみが強いのでしょう。昼間でも公衆の面前でポリポリと身体を掻いていたりします。

アトピーといっても、患者によって、重症度はさまざまです。

 

ステロイド外用薬との付き合い方も、患者によってさまざまです。

先に示したように、悪化したときのみ少量のステロイドを使用している患者がいるようです。症状は明らかではなく、傍目にはアトピーとわからないかもしれません。

軽症のうちあれば、定期的に週に1回や2週に1回程度、少量のステロイドを塗ることで症状を維持している患者もいることでしょう。

他方、なかなか症状がおさまらず、毎日ステロイドを使用している患者もいます。

指示された量のステロイドで症状がコントロールできている患者もいれば、指示された量を塗っていても症状の再発を繰り返す患者もいます。

ステロイドを漸減して保湿剤のみのケアへ移行できる患者もいれば、ステロイドで抑えきれなくなり免疫抑制剤の内服へ移行する患者もいます。

このように、治療の内容と経過は、患者次第で異なります。

 

私は、アトピーをめぐる医師と患者の対立、あるいは患者同士の対立がある理由は、アトピーにはさまざまな面があるにもかかわらず、自分が知らないアトピーの一面について、あまり想像力が及ばないからだろうと考えています。

とりわけ、治療薬の副作用が生じた患者への想像力が乏しいように思います。

例えば、ステロイド外用薬の副作用のひとつに、「ステロイド依存」があります。しかし、この副作用の存在を信じない人たちがいます。

皮膚科医の大木更一郎氏は、自身のウェブサイト上において、ステロイド依存症といったものはないと主張しています。

よく脱ステロイドのサイトに書いてあるようなステロイド依存症・ステロイド依存性皮膚といったものはなく、だんだん利かなくなってしまうこともありません。 1)http://www.oki-hifuka.jp/original29.html

けれども、アメリカの the National Eczema Association のタスクフォースのもと、ハニフィン氏らがまとめたシステマティック・レビューは、ステロイド外用薬離脱症候群(”ステロイド依存”)は、実在する副作用であると結論づけています。

In conclusion, our review found TCS withdrawal to be an adverse effect that generally occurs with the inappropriate prolonged frequent use of high-potency TCS. Clinicians and patients should be aware of this entity and the predisposing factors. 2)Hajar et al. A systematic review of topical corticosteroid withdrawal (‘‘steroid addiction’’) in patients with atopic dermatitis and other dermatoses, J am acad dermatol, volume 72, number 3, March 2015.

結論として、我々のレビューは、高力価ステロイド外用薬の不適切・長期・頻繁な使用によりステロイド外用薬 (TCS) 離脱症候群が一般に生じる副作用であることを認めた。医師と患者は、この実在する素因について知るべきである。

このように、ステロイド外用薬によるステロイド依存が存在することについては、エビデンスがあるといえます。

3年前にこのレビューが発表された後も、ステロイド依存はないと考える人たちは、ステロイド依存患者をみたことがないために想像力が及ばないのかもしれません。

多くの皮膚科医がステロイド依存患者をみたことがない理由は、患者は依存が生じた場合、かかりつけの皮膚科医への受診をやめて、いわゆる脱ステロイド医を受診するようになるからです。

標準治療の名のもと、安易にステロイドを処方し、悪夢のような副作用を生じさせた憎むべき皮膚科医の前には、二度と現れることはないでしょう。

重要なのは、標準治療でコントロールできる患者もいれば、依存に陥ってコントロール不良に陥る患者もいるという事実です。

そして、依存が生じた場合には、ステロイドの中止、すなわち脱ステロイドがひとつの選択肢となります。

なかには脱ステロイドを認めようとしない人たちもいますが、ステロイドへの依存という一面を知っていれば、けっして非合理な行為ではありません。

 

アトピーのさまざまな面に目を向けない一方的な主張は、むなしく響くばかりです。

「標準治療はエビデンスに基づく医療なのだから、標準治療を受けるべきだ」と主張されることがあります。

しかし、標準治療を信じて受けているうちに、ステロイド依存に陥り、薬を中止せざるを得なくなり、離脱症状で汁だらけになりながら家で寝たきりになる患者もいます。

そうした患者がいることを知るべきでしょう。

「ステロイドを何十年も使っているけれど問題が生じたことはない」と主張されることがあります。

しかし、それは偶然その人に副作用が生じなかっただけであって、副作用がないわけではありません。また、ステロイドを何十年も使った後に、中止せざるを得なくなる患者もいます。

そうした患者がいることを知るべきでしょう。

「ステロイドの副作用が出るのは正しい使い方をしていないからだ」と主張する人もいます。

その人は、なぜ、標準治療という “正しい使い方” が普及しているなかで、脱ステロイド病院が入院待ちとなる状況があるのかついて考えてみるべきです。

指示量を塗布しても、湿疹の再発を繰り返し、量が増え、ランクが上がり、過剰使用となってしまう患者がいます。

そうした患者がいることを知るべきでしょう。

「赤ちゃんに脱ステロイドをさせるなんてかわいそう」という主張は、妥当でしょうか。

そもそも、最初からステロイドを塗らなければ、脱ステロイドをする必要はありません。熟慮すべきは、脱ステロイドの要否ではなく、その前段階におけるステロイド治療の要否です。好んで我が子に脱ステロイドをさせている母親などいないはずです。

やむを得ず、脱ステロイドを選んだ母親の苦悩について、想像力を働かせるべきでしょう。

 

現時点において、いわゆるアトピー性皮膚炎は、エビデンスに従えば、すべて解決できるというような単純な病態ではありません。

さまざまなアトピー患者がいるなかにおいて、エビデンスは、ある一部の患者に対する、ある期間に限ってのものでしかないからです。

医師も患者も、もっと想像力を働かせる余裕をもってほしいと思います。

 

(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)

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References   [ + ]

1. http://www.oki-hifuka.jp/original29.html
2. Hajar et al. A systematic review of topical corticosteroid withdrawal (‘‘steroid addiction’’) in patients with atopic dermatitis and other dermatoses, J am acad dermatol, volume 72, number 3, March 2015.

2件のコメント

  1. はじめまして。以前からブログ拝見しております。ほかのアトピー関連のサイトとは一線を画した内容で、大変信頼のおけるブログであると感じております。私は、40代女性です。10代後半の息子と共に、大阪のH病院、S医師の指導のもと脱ステ、脱保湿をすすめております。
    現在2年が経過しました。迷うことは多々ありますが、遠い先を見据え治療に励む日々です。治療と言いましてもただ我慢して時がたつのをやり過ごす日々ではありますが…こちらのサイトはとても参考になり大変有り難く拝見しています。これからもよろしくお願いいたします。

    1. コメントありがとうございます。脱ステ、脱保湿はなかなか大変ですよね。私も迷うのですが、どうしようもないままに日々が過ぎていきます。

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