アトピーにカウンセリングは有効か?(4)

カウンセリング主体の治療?

アトピーに対してカウンセリングが行われるのは、どのような状況なのでしょうか。ある事例をみてみましょう。

金沢大学皮膚科の竹原和彦医師が、前医からカウンセリング治療を実施してほしい旨の紹介を受けたときの様子を、次のように記しています。

小学校三年生の男の子が、転勤のため関東地方のある大学病院より紹介されてきた。その紹介状の内容には、いささか驚いた。要点のみ記すと、

  • 顔にはミディアム、体にはストロングクラスのステロイド外用薬を使用したが、ほとんど改善せず、ステロイド外用薬が効かないタイプと判断した。
  • かなりの掻き動作があり、ストレス、特に親子関係の問題による心理的ストレスが背景に存在すると判断した。
  • 以上の状況を考えて、精神科によるカウンセリングを目的として、三週間の入院を予定した。
  • 父親の突然の転勤で、カウンセリングのための入院が実現できなかったので、私の病院で入院させてカウンセリング主体の治療を実施して欲しい

これに対して、私はまず母親にこのように話したのである。

「これまで十分に良くならなかったのは、たぶん十分な量の薬が塗られていなかったことが原因でしょう。これまで、正しい薬の塗り方を具体的に指導されなかったのではないですか。前の病院と同じ薬をこれから指導するような塗り方をしてもらうと一週間で掻かなくなりますよ。ストレスではなくかゆいから掻いているのですよ1)竹原和彦, 間違いだらけのアトピー治療, 新潮社, 2005.

前医は、ステロイドが効かないため、カウンセリング主体の治療を実施する必要があると判断したようです。

このように、第一選択薬のステロイド外用薬が奏功しないと判断された場合に、代替的にカウンセリングが検討される場合があるようです。

さて、この症例に対し、竹原氏は、ストレスの問題とは捉えず、ステロイドの問題へと差し戻しました。結果、カウンセリングではなく、ステロイドを多く塗ることで改善したと記しています。

ステロイド治療自体の問題を措くとすれば、私はこの判断は正しいように思います。曖昧にストレスの問題にまで広げるよりも、まずはステロイドの用い方を問題にすべきと考えるからです。

ストレスではなくかゆいから掻いているのですよ」とは、けだし名言ではないでしょうか。

 

アトピーカウンセリングの要点

ところで、アトピー患者に対して心理カウンセリングを行う人は、どのような考えをもっているのでしょうか。

一例として、アトピー性皮膚炎に関わる心理カウンセラーA氏の発言から、その考え方の核になる部分を抜き出してみました。

A氏は、アトピーは、「偶然にいろんな要因が重なって」発症するのだといいます。

そして、「原因をさぐってもアトピーをなくすことはできない」といいます。

「原因ばかりを見ていると、過去を嘆いたり、人生をあきらめたり、自分を責めたりして生きることになる」ともいいます。

したがって、「原因にとらわれずに目的」をもって生きると、「アトピーである自分を受け入れ、前を向いていきられるようになる」というのです。

 

この考え方は、前回の記事で取り上げた「アトピー性皮膚炎心身症診断・治療ガイドライン」における記述に通じるものがあります。

早急な完全治癒を目指すのではなく、症状をコントロールすることを目標として、いまできる範囲でQOLの改善をするような課題を与える.

症状をもちながら前向きに生きてゆくような認知の修整 2)羽白誠, アトピー性皮膚炎心身症診断・治療ガイドライン. 日皮会誌: 121 (13), 3247-3249, 2011.

「アトピーをなくすことにとらわれない」、「治らなくても前向きに生きる」というメッセージです。これは、アトピーのカウンセリングにおいて、広く受け入れられている認知の修整方法なのかもしれません。

 

A氏の考えを要約すると、

  1. アトピーの原因はわからない
  2. 原因をさぐってもアトピーは治らない
  3. 目的をもって前向きに生きよう

ということになるかと思います。

 

原因をさぐって治った事例

アトピーカウンセリングでは、原因をさぐってもアトピーは治らないとアドバイスされるかもしれません。

一方、原因をさぐってアトピー様の症状が改善することもあります。次に紹介するのは、主訴がアトピー性皮膚炎の患者において、口腔内金属の除去後に症状が改善した事例です。

28歳のとき顔に皮膚炎を発症し、ステロイド外用を開始するも症状は改善しなかった。29歳になって、頸部や手指にも皮膚炎が拡大したため、免疫抑制薬「プロトピック」を併用するも症状は改善しなかった。その後、知人にアレルギー専門医を紹介され、アレルギー検査の結果、歯科金属アレルギーが疑われたため、当院を受診した。

パッチテストでHg, Ag, Pd, Cu, Sn 陽性、リンパ球幼若化試験でHg, Pd 陽性となり、Hg, Ag, Pd を含む原因と疑われる口腔内金属を除去した。金属除去の翌日に一時的に症状が悪化し、金属除去3か月後に、症状の改善が認められた。3)高永和, 高理恵子, 見分けて治そう! 歯科金属・材料アレルギー. クインテッセンス出版, 2015.

この患者は、アトピー性皮膚炎ではなく、歯科金属アレルギーであった可能性があります。原因である金属を除去しなければ、症状は改善しなかったことでしょう。

もしこの患者が、ステロイドやプロトピックを塗っても治らないので、原因はストレスではないかと思いこみ、カウンセリングを受けて、

「アトピーの原因はわからないし、原因をさがしても疲れるだけだから、完璧に治そうと思わず、今の自分を受け入れて、前向きに生きましょう」

などとアドバイスをされていたらどうなっていたでしょうか。

原因さがしをやめて、金属アレルギーを受け入れ、一生症状に苦しみながら生涯を終えたかもしれません。

もちろん、アトピー性皮膚炎様の症状の裏に金属アレルギーが隠れているケースは稀でしょう。

しかし、可能性は低くとも、原因をさぐるという行為が、金属アレルギーをさぐり当てたことは事実です。

 

アトピー治療でカウンセリングは主流とみなされていない

最近出版されたアトピー性皮膚炎に関する書籍に、

「別冊「医学のあゆみ」アトピー性皮膚炎UPDATE」(佐藤伸一編, 医歯薬出版, 2016.)

があります。

最近アップデートされた知見について、目次をざっとみてみると、次のような項目が挙げられていました。

  • 衛生仮説
  • T細胞、B細胞の異常
  • 外因性・内因性アトピー性皮膚炎
  • バリア異常
  • 経皮感作
  • 食物アレルギー
  • プロアクティブ療法
  • スキンケア
  • 全身療法(内服薬、漢方薬、光線療法)
  • 生物学的製剤
  • 悪化因子対策

「ストレス」や「カウンセリング」の文字は、見出しにはありませんでした。悪化因子対策の一部で、ストレスによる悪化が触れられているだけです。

もし、カウンセリングがアトピーに相当に有効であれば、ひとつの項目として取り上げられているはずではないでしょうか。

 

アトピーカウンセリングへの疑念

私は、アトピーにおけるカウンセリングの問題は、目に見えない、存在するかどうかも分からない、存在したとしてもアトピーを悪化させているかどうかも分からないストレスに対して、何らかの対処をしなければならないと、患者に思い込ませてしまう点にあると思います。

「ストレスに気づくことが大切」とカウンセラーは言うでしょう。

一方で「ストレスではなくかゆいから掻いているのですよ」と指摘する医師もいます。

したがって、本当にストレスで皮膚症状が悪化しているかどうかを見極めることが重要となりますが、ストレスの皮膚への影響を評価する方法が確立されていない現時点において、それを見極めるのは困難です。

もし皮膚症状の悪化因子がストレスでなかった場合、カウンセリングに要した時間と費用が無駄になりかねず、症状改善まで遠回りする羽目になるかもしれません。

しかも、そのアトピーカウンセリングの実際は、「完璧主義をやめましょう」、「ストレス耐性をつけましょう」などの心もとない助言であるかもしれず、終いには「原因さがしはやめて、前向きに生きましょう」などと積極的な治療を中止するように考え方を修正されかねないのです。

次回へ続きます。

 

(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)

(引用部分の翻訳および赤字による強調表示は当サイトによります。正確な翻訳を期していますが、正確性を保証するものではありません。)

References   [ + ]

1. 竹原和彦, 間違いだらけのアトピー治療, 新潮社, 2005.
2. 羽白誠, アトピー性皮膚炎心身症診断・治療ガイドライン. 日皮会誌: 121 (13), 3247-3249, 2011.
3. 高永和, 高理恵子, 見分けて治そう! 歯科金属・材料アレルギー. クインテッセンス出版, 2015.

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

TOP