アトピーにカウンセリングは有効か?(3)

アトピー性皮膚炎心身症診断・治療ガイドライン

アトピー性皮膚炎に関するガイドラインのひとつに「アトピー性皮膚炎心身症診断・治療ガイドライン 1)羽白誠, アトピー性皮膚炎心身症診断・治療ガイドライン. 日皮会誌: 121 (13), 3247-3249, 2011. 」があります(以下、心身症ガイドラインという)。

皮膚科医や連携先の精神科医は、この心身症ガイドラインを参考として、”心身症としてのアトピー性皮膚炎” の診療を行う可能性があります。

また、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版の「心身医学的側面」の記述は、この心身症ガイドラインを基に記述されていることが伺えます。

そこで今回は、心身症ガイドラインを中心に、アトピーにかかわるストレスに対する「心身医学的アプローチ」というものがどのようなものかを概観します。

 

まず、心身症ガイドラインは、ストレスとアトピーの関連を次の3つのパターンに分けています。

心理社会的要因(ストレス)とアトピー性皮膚炎との関連は以下のように考えられる。

1.ストレスはアトピー性皮膚炎の発症・悪化因子のひとつである.

2.アトピー性皮膚炎にかかっていることがストレスとなって心理的な苦痛や、社会的機能の低下、QOLの低下をひき起こす.

3.さまざまなストレスにより治療のコンプライアンスやセルフケアが障害される.

この記述を解釈すると、心身症ガイドラインは、アトピー性皮膚炎にかかわるストレスを、

  • 「心理社会的」ストレス

と考えているようです。

また、

1.は「ストレス → アトピー発症・悪化」

2.は「アトピー発症・悪化 → ストレス」

を指すと考えられます。

さらに、アトピーにかかわるストレスを

  • 「悪化因子」かつ「発症因子」

と明記しています。

 

そして、ガイドラインは、この3パターンを診断・治療するための基準を設けて、アトピー性皮膚炎における心身症を3つに分類しています。

1.はA基準:「ストレスによるアトピー性皮膚炎の発症、再燃、悪化、持続(狭義の心身症)」

2.はB1基準:「アトピー性皮膚炎に起因する不適応」

3.はB2基準:「アトピー性皮膚炎の治療・管理への不適応」

 

ここまでで、この心身症ガイドラインの決定的な欠点を指摘すると、どのようなストレスが「心理社会的」ストレスに該当するのかを定義づけていないことです。

なお、身体的ストレスについては考慮されていません。

 

ストレスでアトピーが「発症」?

心身症ガイドラインは、ストレスによって、アトピー性皮膚炎が悪化するだけでなく、「発症」するといいます。しかし、その発症機序については、何の説明もありません。

A基準の診断ガイドラインにおいて、

アトピー性皮膚炎が何かの出来事に引き続いて発症

と書かれているだけです。

非常に曖昧です。アトピー性皮膚炎を発症させるだけの心理社会的な「何かの出来事」とは、いったい何なのでしょうか。

ともかく、発症因子を明らかにしないまま、ガイドラインの記述は続きます。

 

心身症ガイドラインにおける治療

A基準:「ストレスによるアトピー性皮膚炎の発症、再燃、悪化、持続(狭義の心身症)」の治療、つまり「ストレス→アトピー発症・悪化」の場合の治療内容を要約します。

支持療法、ストレス緩和のための自律訓練法、ストレス減少のための環境調整、ストレス抵抗性向上、搔破への気づきを促すための掻破の記録(セルフモニタリング)、ハビットリバーサル、行動療法、認知行動療法などが列挙されています。

 

私は、それが事実かどうかは別として、アトピーが、

  • ステロイドで治ったという人
  • ステロイドをやめて治ったという人
  • 温泉で治ったという人
  • 漢方で治ったという人
  • 引っ越して治ったという人

を見聞きしたことがあります。

しかし、

  • 自律訓練法で治ったという人
  • ストレス抵抗性の向上で治ったという人
  • 認知行動療法で治ったという人

を見聞きしたことがありません。

私はこれらの治療法を否定するわけではありません。単に、それらで治ったという人に出会ったことがないのです。

 

「掻破の記録」で気づきを促す?

A基準の治療のうち、「掻破の記録」をつけることで掻破への気づきを促すという方法は、時折紹介されることがあるので、ご存知のアトピー患者もいらっしゃるかと思います。

これについて一患者として意見を述べます。

思うに、掻破の記録をつけることが有効かもしれないのは、軽症アトピー性皮膚炎の場合です。記録をつける余裕があるからです。

重症アトピー患者では、この方法が有効であるとは、とても思えません。1日のうちの掻破回数があまりに多いからです。何度も書き込むことになり、記録をつけること自体が負担となりますし、埋め尽くされた文字にストレスを感じることでしょう。

加えて、外出時の記録が困難です。ノートと鉛筆を常に持ち歩くのでしょうか。仮にスマートフォンにメモを残すとしても、授業中や仕事中はどうするのでしょう。ノートやスマートフォンを持ち込めて、かつ私用のメモを残せる職場は限られるでしょう。

また、重症の場合、外出はおろか、寝たきり状態でベッドから出ることさえ困難なときがあります。「体を起こす」、「部屋を歩く」、「ノートや鉛筆等を取り出す」、「書き込む」といった動作のひとつひとつが、大変な苦痛になることさえあります。

枕元にノートや鉛筆、スマートフォンを置いていたとしても、記録をつけるのは容易ではありません。なぜなら、時間帯によっては、絶え間ない強いかゆみのために放心状態で何時間も掻き続けるので、途中で記録をつける余裕がないからです。

掻いた後も、掻きむしってしまった後悔や罪悪感に苛まれ、なかなか記録をつける気にはなれないでしょう。むしろ記録をつけることに対してストレスを感じることでしょう。

 

掻破の記録を一律に患者に勧めるのは、重症アトピーの実態を理解していないことに気づくべきです。

さらに言えば、掻破行動に気づいたところで、アトピーが良くなるとは限りません。かゆみの原因がある限り、掻破行動を抑制できないからです。

かゆみのために掻破行動が生じるのですから、掻破行動をなくすよりも、一義的にはかゆみをなくす対策を行うべきです。

 

ただし、記録を残すことは重要です。

今ではスマートフォンで手軽に写真を残すことができます。掻破の記録を文字に残すことは困難でも、写真を撮ることは、動作が少なく、考える必要もなく、時間がかからないので、実行可能だと思います。

また、搔破の記録を義務的に毎日つけることは困難でしょうけれども、期間を決めず、余裕があるときに症状の経過をメモに残すことは可能であり、有用でしょう。

 

「アトピー性皮膚炎の治療・管理への不適応」について

心身症ガイドラインは、「さまざまなストレスにより治療のコンプライアンスやセルフケアが障害される」ことがあるといいます。

そして、この病態についてB2基準「アトピー性皮膚炎の治療・管理への不適応」が設けられています。

記述内容が大変にわかりにくいのですが、基準を要約すると、心理社会的要因や性格的要因によって、

  • ステロイドを不合理に忌避したり、
  • 症状コントロールに無力感をもっていたり、
  • 医師に対する不信感をもっていたり、
  • 症状悪化に対する不安により薬物の使用過剰になっている

ということのようです。

その治療としては、

  • 話をよく聞く
  • 完治ではなく症状コントロールを目標とする
  • ステロイド薬の正しい知識を伝える
  • ステロイド薬の不安がとれない場合はステロイド薬なしでしばらく治療し、症状がどの程度改善するかを評価して、ステロイド薬なしで治療できる限界を認識してもらう

などの内容が記述されています。

 

この項目は、私にとって、本当に意味不明です。

「ストレス」があるために「きちんと治療をしない」と言いたいようです。なんでもかんでもストレスのせい、患者のせいにしたいのでしょうか。

患者としての意見を述べます。

私がステロイドを忌避するのは、心理社会的要因や性格的要因のためではなく、単にステロイドによる副作用を経験したからです。

私が医師に対して不信感を持っているのは、ステロイドの副作用に対する知識が浅薄で、ステロイドを安易に処方し、副作用が起きても患者のせいにするからです。

薬物使用が過剰になるのは、不安のためではなく、同じ強さ及び量のステロイドでは皮疹を抑えきれなくなるからです。

心身症ガイドラインのこの基準は、「いかにステロイドを使わせるか」を目的としているように読めます。この基準に限っては、心身医学的アプローチといえども、皮疹改善の手段は、結局はステロイドのようです。

 

心身症ガイドラインではアトピーは治らない

心身症ガイドラインにおいて、患者が認識しておくべき重要な点は、ガイドラインがアトピー性皮膚炎を完治させることを前提としていないことです。

早急な完全治癒を目指すのではなく、症状をコントロールすることを目標として、いまできる範囲でQOLの改善をするような課題を与える.

症状をもちながら前向きに生きてゆくような認知の修整

このガイドラインに忠実なカウンセリングでは、患者が「アトピーを治したい」と訴えても、「完治を目指さないでコントロールしましょう」「治らなくても前向きに生きていきましょう」など、考え方の修整を迫られることでしょう。

 

嗜癖的掻破

ところで、アトピー性皮膚炎に対する心身医学的アプローチを行う人たちは、患者の掻破行動、とりわけ「嗜癖的掻破」が疾患に関与していると主張することがあります。

心身症ガイドラインに嗜癖的掻破についての記述はないのですが、頻繁に指摘されることがあるので、ここで取り上げます。

アトピー性皮膚炎患者の掻破行動について,患者自身が1ヵ月以上にわたり毎日記録したノートをもとに解析を行った.32例の記録が得られ,検討の結果,通常の痒み刺激による掻く行動の他に,情動と相関して多くは自動的無意識的に起こり,定期的に毎日長時間繰り返されている習慣的な掻破行動の存在が認められた.この習慣的な掻破行動には精神的依存が生じており,コントロールを欠いた状態も見られた.これは単に習慣を越えて嗜癖addiction,または嗜癖行動addictive hehaviorに相当するものであり,嗜癖的掻破行動addictive scratching,さらに,掻破行動依存症scratch dependenceと考え得ると思われた.また掻破行動はほぼ同じ様な掻き方に様式化していることが認められた.そのため,掻破の関与した皮疹は左右対称性に限局して分布する特徴があった.また掻破行動の道具として使用される患者の両手にはpearly nailなどの特徴的な変化が生じていた.嗜癖的掻破行動がアトピー性皮膚炎の病変形成に関与している事が示唆された.2)小林美咲, アトピー性皮膚炎患者の掻破行動の検討. 日本皮膚科学会雑誌, Vol.110 (2000) No.3, p.275-.

一患者として言わせてもらえば、論理の飛躍があるように思います。掻くことが癖になっているわけではありません。

皮膚症状が不安定なときは、皮膚がかすかにチリチリ・ムズムズすることがあります。非常に微細なかゆみ等の感覚が皮膚に生じるのです。だから掻いてしまうのです。少なくとも私の場合はそうです。何の感覚も生じていないのに、手を伸ばして掻くことはありません。

パーリー・ネイル(pearly nail)についても一言。爪がパーリー・ネイルになっているから嗜癖で掻いている証拠だともいわれます。しかし、私は過去2回、パーリー・ネイルになったことがありますが、2回とも「亜鉛華軟膏」を使用していたときだけに生じました。ですから、パーリー・ネイルは、亜鉛華軟膏あるいは何らかの軟膏基剤を塗った場合において、掻くことで爪に軟膏成分が付着し、摩擦が加わり、ピカピカになるのだと考えます。掻くだけでパーリー・ネイルにはならないでしょう。最近パーリー・ネイルの話をあまり聞かないのは、亜鉛華軟膏よりもヒルドイドの処方が多くなったからだと推測します。

いずれにせよ、私が「嗜癖的掻破行動」説について思うのは、医師が患者の話を聞いておらず、最初から原因はストレスと決めつけ、医師に都合の良い枠に患者をはめ込もうとしているのではないかということです。

例えば、先の引用部分、「情動と相関して多くは自動的無意識的に起こり」とか「掻破行動には精神的依存が生じており」などとありますが、患者が主観的に記録した掻破行動を解析するだけで、なぜそんなことがわかるのでしょうか。患者の行動を、想定した筋書きに合うように、論理を飛躍させ都合よく解釈しているようにみえます。

 

一方で、次のように考える医師もいることは、患者にとって救いです。

アトピー性皮膚炎患者には掻破癖のある人が多く、この癖のために皮疹が治りにくくなっている、という説がある。痒みのあるすべての人に少し痒くなるとすぐ掻きはじめるという傾向は存在するが、癖があるから皮疹が治らないわけではない。本当に痒くて掻破しているから治らないのである。  3)佐藤健二, <新版>患者に学んだ成人型アトピー治療-難治化アトピー性皮膚炎の脱ステロイド・脱保湿療法, 柘植書房新社, 2015.

「掻くから治らない」という考え方は、手の打ちようが無い皮膚科医や周囲の人達の苦し紛れの言い訳みたいなものだと私は感じる。それは「本末転倒で患者に責任転嫁しかつ傷つける概念で、それに患者が他愛もなくまるめこまれてしまうことが悲しい」という感想しか患者にもたらさない。 4)深谷元継, ステロイド依存-ステロイドを止めたいアトピー性皮膚炎患者のために, 柘植書房新社, 1999.

私が心身医学的アプローチを持ち出す医師に対して良い印象を持たないのは、まさに、「手の打ちようが無い皮膚科医の苦し紛れの言い訳」にしか聞こえないからです。

「気づきが足りない」、「掻くのが癖になっている」から治らないのではありません。

気づいているし、癖でもない。ただかゆいから掻いているのです。

 

ストレス対処にみる曖昧さ

ここで、心身医学的アプローチにおける、ストレスへの対処方法をみてみましょう。

一例として、東京女子医科大学の檜垣祐子氏の文献から引用します。

ストレス対処の方法

  • 60点主義:すべてをやろうとしない、投げ出さない
  • 優先順位をつける
  • できるところから
  • こだわり過ぎない、くよくよしない
  • ストレス解消、気晴らし

人間関係のストレスへの対処

  • まわりに振り回されない
  • まわりをコントロールしない
  • 過剰な期待をかけない
  • 誰の問題か考え、自分の問題に対処
  • 自分で自分を評価

5)檜垣祐子, 心身症性皮膚疾患. 皮膚臨床 51 (11) 特: 49 ; 1658-1665, 2009.

上記で掲げられているようなことは、人間社会で生きていくうえでは、一般的に、日常生活において、普通に行っていることではないでしょうか。

この程度でストレス対処になるのであったら、ストレスで悪化するアトピー性皮膚炎などあるのかとさえ思いますし、あったとしてもごく少数でしょう。

加えて、対処方法の有効性を客観的に定量化できないので、どうしても評価が曖昧となってしまいます。

 

以上、心身症ガイドラインを中心に、アトピー性皮膚炎に対する心身医学的アプローチを概観してきました。

そのなかで、

  • アトピー性皮膚炎における、心理社会的ストレスの定義、発症因子、発症機序が明らかにされないこと
  • 「患者の気づきが足りない」、「掻くのが癖になっている」など、基本的に患者自身に問題があるとすること
  • 心理社会的ストレスへの対処方法が曖昧であること

などを確認しました。

また、「症状をもちながら前向きに生きていく」など、患者にアトピーが治らないことを受け入れさせようとしている点にも留意すべきでしょう。

次回に続きます。

 

(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)

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References   [ + ]

1. 羽白誠, アトピー性皮膚炎心身症診断・治療ガイドライン. 日皮会誌: 121 (13), 3247-3249, 2011.
2. 小林美咲, アトピー性皮膚炎患者の掻破行動の検討. 日本皮膚科学会雑誌, Vol.110 (2000) No.3, p.275-.
3. 佐藤健二, <新版>患者に学んだ成人型アトピー治療-難治化アトピー性皮膚炎の脱ステロイド・脱保湿療法, 柘植書房新社, 2015.
4. 深谷元継, ステロイド依存-ステロイドを止めたいアトピー性皮膚炎患者のために, 柘植書房新社, 1999.
5. 檜垣祐子, 心身症性皮膚疾患. 皮膚臨床 51 (11) 特: 49 ; 1658-1665, 2009.

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