アトピーにカウンセリングは有効か?(1)

アトピーとストレスの関係

アトピー性皮膚炎の症状にはストレスが関与しているという考え方が一般的です。そのため、ストレスを軽減するためのカウンセリングが有効ともいわれます。

アトピーにカウンセリングは本当に必要なのでしょうか。複数回にわたり、ひとりの患者の視点から考えたいと思います。

最初にお断りしておきますが、個人のブログですから、もちろん個人の見解にすぎません。ストレスで悪化すると考える医師や患者が大多数のなかで、私の意見はかなり偏っているようにみえることでしょう。

しかし、私のように考えるアトピー患者もいるということです。

さて、初回は、カウンセリングの前提となるストレスに焦点をあて、アトピー性皮膚炎とストレスとの関係をみていきます。

 

一般的に、ストレスはアトピー性皮膚炎の悪化因子であると考えられています。 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版では、アトピー性皮膚炎の心身医学的側面について、次のように記述されています。

アトピー性皮膚炎は重症化すると患者および家族のQOLに大きな影響を与える.またストレスで悪化することもよく知られており,皮膚症状が心理社会面に影響し,心理社会的因子が皮膚症状に影響するという心身相関がみられ,遷延化している例では悪循環が持続していることが多い.

このように、ガイドラインは、アトピー性皮膚炎は心理社会的ストレスで悪化するものと捉えています。

けれども、私は「アトピーがストレスで悪化する」と聞いても、腑に落ちません。

その理由は、私の長いアトピー歴において、「心理的ストレス」による症状の悪化を感じたことがないからです。

 

ストレスでアトピーではなく、アトピーがストレス

一方で、私は、アトピーの悪化が心理的ストレスになることはあります。

例えば、滲出液が出るほどに悪化するとひどく気持ちが落ち込みますし、真っ赤な顔や皺の寄った皮膚を他人に見られるのが苦痛となりますし、皮膚疾患をもつ自分自身に対して自己嫌悪を抱きます。

つまり、私の場合、ストレスとアトピーとの関係は、時系列としては次のようになります。

 

  • 心理的ストレス → アトピー悪化 ✖︎ ない
  • アトピー悪化 → 心理的ストレス ○ ある

 

ストレスは悪化因子か発症因子か

また、ここで留意したいのは、上記のストレスというのは、アトピーの「悪化因子」としてのストレスです。

すでにアトピー性皮膚炎を発症している場合において、ストレスがアトピー性皮膚炎の症状の「悪化因子」となり得るということです。

アトピー性皮膚炎を発症させる因子、すなわち、アトピーの「発症因子」としてのストレスのことではありません。

 

アトピーとストレスの関係をみるうえでは、「悪化因子」と「発症因子」をきちんと区別することが重要であると思います。

しかし、残念ながら、この区別がなされないままストレスとアトピーの関係が論じられることが多く、ただでさえ曖昧な議論が、より曖昧な議論となってしまう例が多々見受けられます。

アメリカ国立衛生研究所は、「発症因子」(原因)と「悪化因子」を明確に区別して、アトピーとストレスの関係について述べています。

Stress, anger, and frustration can make atopic dermatitis worse, but they haven’t been shown to cause it.

ストレス、怒り、フラストレーションは、アトピー性皮膚炎を悪化させうるが、アトピー性皮膚炎の原因であるとみられていない1)Fast Facts About Atopic Dermatitis

In the past, doctors thought that atopic dermatitis was caused by an emotional disorder. We now know that emotional factors, such as stress, can make the condition worse, but they do not cause the disease.

かつては、医師は心の病気がアトピー性皮膚炎の原因であると考えていた。今では、ストレスなどの感情的要素は、症状を悪化させうるが、アトピー性皮膚炎の原因ではないことがわかっている2)Handout on Health: Atopic Dermatitis

つまり、ストレスは、アトピー性皮膚炎を悪化させることはあり得ても、発症させることはないであろうことが記述されています。

  • ストレス → アトピー悪化 ○ ある
  • ストレス → アトピー発症 ✖ ない

 

心理的ストレスと身体的ストレス

次に、ストレスとアトピーの関係を考えるうえでは、アトピーの悪化因子としてのストレスを定義づける必要があると思います。

ストレス反応を生じさせるストレッサーには実にさまざまな種類があるからです。

  • 物理的ストレッサー「自然」に代表される外部環境
    寒暖の変化、騒音、高低音による刺激など
  • 社会的ストレッサー「社会環境」
    経済状況の変化、人間関係など
  • 心理的ストレッサー「個人的な状態」
    緊張、不安、悩み、あせり、さみしさ、怒り、憎しみなど
  • 身体的ストレッサー「生理的状況の変化」
    疲労、不眠、健康障害、感染など

ストレスについて | 生活習慣病を予防する 特定非営利活動法人 日本成人病予防協会より)

ストレスがアトピーを悪化させるとはいうものの、そのストレスがどのようなものかを明らかにしないまま議論をしても、あまり意味がありません。

おそらく、アトピーにおけるストレス悪化因子説を支持する人は、「社会的」あるいは「心理的」ストレッサーを念頭に置いていると思われます。

それならば、どのような社会的・心理的ストレスがアトピーの悪化因子となり得るのか、具体的に示すべきです。

職場・学校の人間関係、上司からの叱責、試験や成績へのプレッシャーなど、ストレスを生じさせる出来事を一覧にするなどの方法が考えられます。

ここでストレスの一言で済ませてしまうと、曖昧な議論となってしまいます。

 

さて、私は、一般的に考えられている「心理的・社会的ストレッサー」によって、アトピー性皮膚炎の症状が悪化したと自覚したことはありません。

例えば、人間関係とか、将来への不安などといったことで、これまで症状が悪化した覚えはありません。

ただし、イライラしたり、ホッとすると、かゆくなります。

もし「イライラ」を心理的ストレッサーとして定義づけるなら、私も心理的ストレスで悪化することはあるといえます。

けれども、緊張や不安、悩み、あせり、さみしさ、怒り、憎しみなどでかゆくなることはありません。むしろ、緊張や不安から解放されて「ホッとする」とかゆくなるのです。

よく、受験がもたらすストレスでアトピーが悪化するといわれます。

あくまで私の場合ですが、受験や仕事上のプロジェクトなど、何か成し遂げるべき目標ができると、むしろ気持ちに張り合いが出ます。

そして、そのような緊張状態では、かゆみを忘れていることが多いです。その緊張から解放され、ホッとすると、かゆみが出るのです。

また、イライラしたり、ホッとしてかゆくなったとしても、そのかゆみは一時的であり、かゆみもそれほど強くないので、掻いてひどく悪化することはありません。

ですから、私の場合、「心理的」ストレッサーがあるためにアトピーが良くならないことはないと考えられます。

 

一方、私は、「身体的」ストレッサーによって悪化することがあります。

疲労によって悪化します。不眠でも悪化します。例えば、一日中歩き回って疲れて帰って来たときなど、かゆみが出て掻きむしったり、掻いたりしなくても胸にブツブツができることがあります。睡眠不足のときは傷の治りが遅く、皮膚がガサガサしがちです。

ですから、私の場合、毎日仕事で疲れ切って帰ってくるなど、「身体的」ストレッサーがあるためにアトピーが良くならないことはあり得ます。

 

まとめると、私は、「心理的ストレス」により悪化することはないと感じています。ただし、イライラしたり、ホッとすることを、「心理的ストレス」として定義づけるなら、「心理的ストレス」で悪化することがあるといえます。

また、私は、「身体的ストレス」により悪化することがあります。

 

成人アトピーはストレスのせい?

アトピー性皮膚炎の心理社会的側面を重視している病院があります。東京女子医科大学病院です。

ウェブサイトの皮膚科アトピー外来の紹介には、次のような説明があります。

成人の患者さんでは人間関係、進路葛藤などの心理・社会的ストレス皮膚症状の悪化に強く関与していることがあります。その場合には心身医療科と連携して診察を行っています。3)専門外来紹介:患者さんへ|東京女子医科大学病院 皮膚科

現在の皮膚科教授は川島眞氏です。川島氏は2000年版アトピー性皮膚炎治療ガイドラインの作成委員長でしたから、ガイドラインにおける「心身医学的側面」の記述内容に何らかの影響をもっていたかもしれません。

川島氏の考え方をもう少し詳しくみてみます。氏の著書「皮膚に聴く からだとこころ」(PHP研究所, 2013)から一部引用します。

ストレスで皮膚トラブルが生じ、それがまたストレスになって、さらに睡眠不足や便秘を生じ、湿疹が増える・・・・・・などと、悪循環に陥ることがあるでしょう。鶏が先か、卵が先かというのは難しいところですが、一ついえるのは、気づくことの重要性です。

成人のアトピー性皮膚炎の患者さんは、完璧主義の人が多いように感じます。

完璧にこなさないと気がすまないから、いろいろな仕事を引き受け、結局はため込んでしまって、ストレスになってしまう。

上記の川島氏の主張のなかで注目したい点は、

  1. ストレスがアトピー性皮膚炎の発症因子になり得ると考えていること。
  2. ストレスが成人患者において強く関与していると考えていること。

の2つです。

つまり、この2点を主張することで、最近成人アトピー性皮膚炎患者が増加している原因を、ストレスによる発症で説明することも可能となるわけです。

 

ここでひとつの問題が生じます。

それは、ステロイド外用薬の副作用により症状が悪化したとしても、その原因が心理社会的ストレスにあるとして、すり替えられてしまう危険性があることです。

アトピー性皮膚炎診療ガイドラインの2009年版から引用します。

近年しばしばみられる成人患者の顔面の紅斑性病変の多くは、掻破などを含むステロイド外用薬以外の要因に起因するものではある 4)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン, 日皮会誌: 119 (8), 1515-1534, 2009.

アトピー性皮膚炎の特に成人の重症例においては、人間関係、多忙、進路葛藤、自立不安などの、アトピー性皮膚炎以外の心理社会的ストレスが関与し、嗜癖的あるいは依存症とも呼ぶべき掻破行動が生じ、自ら皮疹の悪化をもたらしている例もまれではない.

成人型アトピーの難治化の原因はわかっていません。それにも関わらず、何でもかんでもストレスのせいにしてしまったら、原因究明から遠のくばかりではないでしょうか。

なお、この2009年版における記述は、2016年版のガイドラインでは削除されました。重要な記述ではないという判断があったのでしょう。

 

以上、アトピー性皮膚炎とストレスとの関係において、

  • 「発症因子」と「悪化因子」の区別が曖昧であること
  • 「心理的ストレス」と「身体的ストレス」等の区別が曖昧であること
  • 日本において、一部、ストレスが「成人」型アトピーの「発症因子」として主張されていること

を指摘しました。

こと日本において、成人型アトピー性皮膚炎の発症因子として、証拠がないにもかかわらず、ストレスに論拠を求める主張があることには留意すべきでしょう。

次回に続きます。

 

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References   [ + ]

1. Fast Facts About Atopic Dermatitis
2. Handout on Health: Atopic Dermatitis
3. 専門外来紹介:患者さんへ|東京女子医科大学病院 皮膚科
4. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン, 日皮会誌: 119 (8), 1515-1534, 2009.

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